「サクラクエスト」17話 若い女の子たちが、独居老人の限界集落問題なんて解決できるのか
20歳女子の木春由乃。ド田舎の間野山観光協会に呼ばれて、山あいの集落の老人たちの実態を知る。
アニメ『サクラクエスト』17話。Amazonプライムビデオでは、テレビ放送後すぐに配信されていますのでぜひ。全話見られます。
17話は、今までで一番地味で、一番生々しい回だ。テーマは「限界集落の独居老人」と「交通難民」。

公式HPより、二期のメインビジュアル
●祭りどころじゃない、死活問題だ 17話「スフィンクスの戯れ」
観光協会の木春由乃たちは、50年前に途切れてしまった「みずち祭り」を復活させるべく、三種の祭具を探し始めた。
山奥の集落に住む元大学教授・鈴原に話を聞きに行ったところ、どうやらどこかの蔵にあるらしい。
自分たちの手には負えないので、老人たちが以前配布されたタブレットの使い方講習を開き、SNSで情報集めを開始した。
一方、集落に向かう路線バスが廃止になると決まり、老人たちは激怒。
鈴原率いる集落の人々はSNSを利用して、バス路線廃止反対のためのクーデターを起こした。

公式HPより。ものすごい老人率が高い話だった
●ライフラインとしての路線バス
『サクラクエスト』が、老人ばかりの限界集落の現実に、ついに向き合った。
路線バスは、老人にとってのライフラインだ。
80代になると、病院に行くのにも、買い物に行くのにも、バスがないと生きていけない。
しかしこの集落での乗降者数はごくわずからしい。
バス路線廃止に踏み切るのは、ほとんどの場合が維持するお金がないから。
町が補助金を出して、コミュニティバスを出すこともある。
現実社会だと、バス車両一台400万、人件費800万、軽油代200万……年間で1千万から2千万円かかる。とても自治体で維持できる額ではない。
路線バスが相次ぎ廃止、地方で急増する「交通難民」(東洋経済オンライン)
2009年に書かれたこの記事を読むと、17話の路線バス廃止の描写がいかにリアルかがよくわかる。
「高齢者の割合が半分以上という「限界集落」だ。さらにこの地区の独居比率は3割を超える。住民同士の助け合いが機能しなくなったうえに、通院や買い物に不可欠な路線バスの廃止、減便」
今回描かれた集落は、どうやっても人口は増えようがなく、老人しかいない。
集落のインフラ停止問題は、多くの自治体が諦めざるを得なかった難題だ。
18話だけで全てを丸く収めるのは難しそう。女の子たちはどうコマを進めていくんだろう?
●独居老人とSNS
作中で香苗が、老人たちが町に住んでコミュニティを作ればよい、という提案をしている。
しかし「人権」を考えるとそうもいかない。
まじめに働いてきて年金をもらう独居老人たち。住みたい場所に住むのは、権利だ。
教授の言うように、集落のコミュニティを解体することは、この集落の文化を破壊する行為でもある。
町が配って老人たちが使えなかったタブレットを、由乃たちが使い方を教えていた。これは、現実でもあちこちで行われている。
孤独死や認知症による徘徊は、独居老人が抱える大きな問題の1つ。
以前はポットにセンサーを付けて、老人が部屋にいるかどうかチェックするシステムがあった(お茶は絶対飲むので)。
日本郵政は2020年までに、高齢者カスタマイズされたiPadを500万人に無償配布することを発表している。
テレビ電話やチャット、写真管理、年金の手続き、食品の配送などができるアプリの入ったものだ。
第55回 高齢者のスマホ利用の実態とは? 500万人の高齢者にiPadが無償配布される背景に、8割もの高齢者からの「インターネットはなくてはならない」の声(みんなの介護)
老人社会に、インターネットは必須になりはじめた。
ただしネットが使えるのと、リテラシーを理解しているのは別問題だ。
マナーを勉強していなかったため、匿名掲示板でのトラブルが起きた。
YouTube的なところに集落の人が動画配信をするのは、さすがに無防備すぎるのでは?
リテラシー講習会をしていなかったのは、IT大臣の香苗の手落ち。
とはいえ、完全に孤立したり、ボケて所在不明になるよりはいいんじゃないかなあ。
LINEで「○○さん最近既読つかないけど、連絡取ってみる?」なんてこともできそう。
少なくともこれで、崩壊していた集落のコミュニティは、ちょっとだけ再建された。
●頭のいい人は性格が悪いサクラクエスト
今回登場した教授・鈴原、えらい偏屈。
観光協会の5人を小馬鹿にしたかのような発言ばかり。人を試すにしても、いらんところで神経を逆なでしている。
このアニメ、外部の頭のいい人たちが、どうにもモヤっとさせられるキャラクターとして描かれることが多い。
映画監督、テレビ局アナウンサー、ミュージシャン。
別に謝るでもしっぺ返しにあうでもなく、するっと美味しいところを持っていってフェードアウトする。
「外から来た頭いい人はムカつく」ルールがどう作用していくかは、エンディングまで見て確かめたいところ。
とりあえず教授は「スフィンクス」にあたるようなので、謎掛け的になにか思惑がありそう。
引っかかりがあり、カタルシスが微妙に足りないところが、この作品の現実と虚構の線引なのかもしれない。
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