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みうらじゅんが“趣味不要論”を唱えられるのは、孤高の存在だからだ「AERA」“「趣味圧」が苦しい”の苦しさ

厚生労働省が「働き方改革」を掲げる昨今。これが無事に実現すれば、多くの人の仕事とプライベートのバランスが見直されていくことだろう。趣味に費やす時間を増やすことも可能となる。

『AERA』7月31日号が、“「趣味圧」が苦しい”なるタイトルで特集記事を組んでいる。

「趣味圧」とは、何ぞや? その事例は、以下だ。
・就職活動を有利にするため、学生時代に部活で取り組んだものの実は苦しい思い出しかない「ダンス」を趣味だと偽り、履歴書に記入する。
・婚活でマッチングの成功率を高めるため、男性が自分を偽って女性ウケする「海外旅行」を趣味に公言する。
・日本文化を学ぼうと茶道教室に通い始めるも、先生や先輩たちから10万円単位の出費が余儀なくされる免状取得を勧められ、断りきれないまま教室通いを続ける。

好きだから始める趣味であるはずが、趣味に取り組みながら周囲の同調圧力に苦しんでいる。自分をよく見せる印象操作の道具として、本意ではないものを趣味に選んでしまっている。

いや、これらはまだ序の口だ。初対面同士のコミュニケーションとして「趣味は何ですか?」と問われることは多いが、その時に「趣味はありません」と返すと気まずくなってしまう。相手が差し出したコミュニケーションの土俵に乗ることを拒絶した形だからだ。
では、どうすればいいか? 無趣味の人が無趣味を隠し、「ビジネス書の読書と子育てが趣味」と答えて自身の無趣味を察してもらう……なんて悲しき事態が存在するらしい。なるほど、現代の世に「趣味圧」ははびこっている。

「趣味とは団体行動の世界。だから僕にはいらない」(みうらじゅん)
今回の特集で、「趣味論」をテーマにした各界著名人へのインタビューが行われている。その中で際立つのは、みうらじゅんだ。
「ゆるキャラ」や「仏像」など、数々の趣味を仕事に昇華させてきたみうら氏。……だと思いきや、それは早計。彼は「趣味という意識はまったくありません」と断言する。

例えば、みうら氏は各地のもらったら困る土産物(いやげ物)やゴムヘビを収集しているが、それらは断じて趣味じゃない。「これを集めてまとめたら面白いんじゃないか、みんなが喜ぶんじゃないか」と思い付いたからこその行動。あくまで、エンタメに昇華させるための努力なのだ。
「趣味のように自己満足では終われないし、趣味では食えません」(みうらじゅん)

では、みうら氏が定義する「趣味」とはどういうものなのだろう?
「趣味って、すでにある価値観の中で動くものだと思っているんです。(中略)同好の人がたくさん必要な、団体行動の世界ですよね」(みうらじゅん)
人よりたくさんコレクションしているか? 人より知識を持っているか? 同じ価値観の中で競い、熱く語り、自慢するのが「趣味」の世界。なるほど、たしかに同好の士が必要だ。

そして、みうら氏は断言する。
「そういう行動が好きな人が『老後、趣味がないと寂しいぞ』とか言うんでしょうが、僕は団体行動が昔から好きじゃないから趣味は持たなくていい」(みうらじゅん)

したくもない趣味ならば、そもそも無いほうがいい。インスタグラムの普及で各人の持つ趣味がクローズアップされがちな現代だが、みうら氏の「趣味論」はその価値観と相対している。サブカルチャーの旗手が放つ、強烈なカウンターカルチャー砲だ。