2017.07.19
MCバトルはスポーツか。ラッパーDARTHREIDERがバトル史から考える日本語ラップの可能性
テレビ朝日「フリースタイルダンジョン」の放送でブームに火がついた、ラッパーたちがラップの腕を競うMCバトル。その歴史と醍醐味を伝える『MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門』が6月22日より配信開始されている。
著者のDARTHREIDER(ダースレイダー)は、1999年にイベント「B BOY PARK」内で行われた日本初のMCバトル大会に出場。以降、ラッパーとしてだけでなく審査員・プロデューサーとしても現場に携わってきた。本書での語り口は、ですます調で至って穏やか。ラッパー=荒々しい・相手をディスるなんてイメージでいたら、ギャップに驚くはずだ。
その口調で曰く、〈かっこいいラップが勝つというのが、フリースタイルシーンにおいてはとても大事なことです〉。文字起こしした過去のMCバトルの模様を例にとり、かっこいいとされるラップのトレンドの変化と、KREVA(クレバ)・般若・漢(かん)・R-指定など強豪ラッパーたちの特徴がわかりやすく説明されている。
こうした基礎知識もさることながら、〈MCバトルのスポーツ化〉という切り口も興味深い。初期のMCバトルは、相手に言いたいことを互いにラップでぶつけあう真剣勝負だった。審査で考慮されるのは技術面だけではない。自身の生い立ちやラッパーとしての活動を背景に言葉に一貫性があるか、ネガティブな要素もプラスに変える表現ができているか、つまりはヒップホップとして優れているかが重要だった。ところが2009年頃を境に、様式に変化が起きる。
客層の一般化=非ヒップホップ化によって、対立に至る構図や文脈を審査員も務める観客が共有しなくなり、ヒップホップシーンのラッパーがバトルと距離を置くようになる。さらに、大会の優勝者が音源を発表してヒットする構造が崩れ、アーティスト活動が軸のヒップホップシーンとMCバトルシーンの志向にズレが生じる。
こうした変化を受けて主流となったのは、MCバトルでの活動に特化したラッパーたち。技術を競うスポーツ化が進み、一般層には親しみやすい、でもヒップホップの理念とは乖離した状況となる。MCバトルそして日本語ラップは果たして、今後どこへ向かうべきなのか?
著者はあえて答えを出さない代わりに、MCバトルシーンにおける新たな試みを紹介する。ヒップホップの価値観とMCバトルの競技性を審査基準に共存させた「KING OF KINGS」の盛り上がりや、「高校生RAP選手権」(BSスカパー!の番組「BAZOOKA!!!」内のコーナー・イベント)に出場するキャラの立った高校生ラッパーたちの存在を知ると、ブームは終わらないどころかまだまだ面白くなりそうだし、今から入門しても遅くはないという気になる。ラップの裾野の広がりを否定せず、未来への期待に転化させるその筆致は、まさにヒップホップ的だ。