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『君の名は。』三葉とテッシーは若き日の新海誠監督でありルーカスだった『週刊文春』で半生を語る

著名人のゲストがこれまで住んできた家の履歴とともに半生を語る『週刊文春』の名物連載「新家の履歴書」。6月8日号のゲストは、邦画史上第2位となる興行収入249億円超を記録したアニメ『君の名は。』の新海誠監督だった。

『君の名は。』の主人公・三葉が暮らしていた岐阜県糸守町は架空の町だが、岐阜県の飛騨市や長野県にある諏訪湖がモデルと言われてきた。今回のインタビューでは、糸守市のモデルが監督の生まれ故郷、長野県南佐久郡小海町だったことが明かされている(むろん、飛騨市や諏訪湖の風景もモデルになっている)。

小海市は、標高1000メートルを超える高原地帯で周囲を山々に囲まれており、噴火でできた“小さな海”のような湖があちこちにある町だ。新海監督も子どもの頃から「自分は美しい場所に暮らしている」と実感していた。

新海監督の実家は、明治時代から代々続く建設業。夜になると仕事を終えた職人たちが麻雀卓を囲み、中心にいた父親から「お前が会社を継ぐんだぞ」と言われて育っていたという。そのまんまテッシーじゃん! 

三葉の同級生・テッシーこと勅使河原克彦は実家の建設業を継げと父から命じられていた。若き日の新海監督は父親に将来を決められるなんて窮屈だという思いから、東京に出ていくことを決心した。これは東京への憧れを隠さない三葉の心情そのままだ。家業を継がないと決めたときは、父親と幾度も大ゲンカになった。

一方、故郷の美しい風景を愛していた新海少年は、この土地から離れたくないという気持ちもあった。これは「俺はずっと、この町で暮らしてくんやと思うよ」と呟くテッシーの心情とシンクロする。「あの2人には、かつての僕の心情を投影しています」と新海監督。テッシーは“東京に出ていけなかった、もう一人の新海誠”なのかもしれない。

似たような話を聞いたことがある。そう、『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカス監督の話だ。

ルーカスは、どこまでも地平線が続くモデストというアメリカの田舎町で暮らし、町で一番の事務用品店を経営する父親から「お前はこのうちの店を継ぐんだ。お前はこの店を継ぐために生まれてきた」と言われて育てられてきた。映画が作りたかったルーカスは父親とケンカして家出同然で家を飛び出している。

ルーカスの心情は、『スター・ウォーズ』の主人公、ルーク・スカイウォーカーに強く反映されている。最初の作品『エピソード4 新たなる希望』の中で、ルークが辺境の惑星タトゥイーンで「このままここで死ぬんだろうか」と絶望的な気持ちになるシーンがあるが、これはモデストにいた頃のルーカスの気持ちそのままだ。そもそもルークという名前はルーカスの愛称に因んでいる。

タトゥイーンを飛び出したルークは最大の敵である父・ダースベイダーに立ち向かい、これを打ち倒した。最後にルークとダースベイダーは和解している。『君の名は。』でも三葉は父である町長に立ち向かっていた。三葉の父も最終的に三葉に理解を示し、新海監督の父も『君の名は。』の大ヒットを喜んでいるという。ルーカスと『スター・ウォーズ』、新海誠と『君の名は。』は相似形なのだ。