アルスラーンに心酔するダリューンにますますシビれる。荒川弘の『アルスラーン戦記』7
田中芳樹による大河ファンタジー小説を、『鋼の錬金術師』の荒川弘がコミカライズ。天才同士のコラボ芸術だと断言したい『アルスラーン戦記』、7巻が発売されました。今回も知略、武力、そしてコメディ。存分に楽しめる注目巻となっています。
王都奪還の旅を続けるアルスラーン王子は、ペシャワール城塞へとたどり着きます。その隣国・シンドゥラ国は王位継承争いで内紛が起きていました。ラジェンドラ第二王子を味方につけて、後方の憂いをなくしたい。そこで一計を案じます。
内偵のジャスワントを泳がせて、敵にニセの情報を掴ませます。兵糧を襲ったと思わせておいて、兵糧の代わりに弓兵部隊が入っていて返り討ち。アルスラーンと腹心のダリューンは一般兵に化けていて、金の兜には同年代の少年・エラムをおとり役に配置。その隙に城を奪う電撃作戦が綺麗に決まりました。
作戦を指揮したのが軍師・ナルサス。ラジェンドラを捕虜にする鮮やかな策略も描かれていて、『アルスラーン戦記』における諸葛亮孔明ですよ。戦記物って、敵軍がこちらの計略にハマっていくのが快感ですよね。荒川弘のコマ割り力(ぢから)が、『アルスラーン戦記』のおいしいシーンをテンポよく、気持ちよく見せてくれるんです。
ダリューンの戦いも雄々しかったです。スキンヘッドのイキってる将軍を一騎打ちで撃破。何合か打ち合うんですが、無駄を省いた描き方で、でも剣戟の軌跡は躍動的に描いているんです。激しい斬り合いから間合いを取り直す、馬上で戦う二人の姿。その動きのひとつひとつが、マンガで省いた部分を脳内で補完できるくらい、見事な構図になっているんですよ。
二言三言会話を交わしたあと、敵将は血を吹き出して落馬、絶命します。ダリューンは背中を向けたままっていうカッコよさもたまらん。
そんなシリアスの中にもコメディを盛り込む、『鋼の錬金術師』の荒川弘テイストも健在です。同盟を組んだラジェンドラ第二王子がお調子者で、アルスラーン一行の絶世の美女・ファランギースを口説こうとします。酔わせようとしたものの、ギーヴと二人がかりで飲み合戦になっても叶いませんでした。ラジェンドラもギーヴも二日酔いでゲーゲー吐いたり、腹に顔を描かれていたりと散々な様子。でもファランギースはケロッとした笑顔で、寝酒を注文している対比が愉快でした。
アルスラーン王子は、捕まえた間者のジャスワントを解放します。ジャスワントの中にある誠実さを見抜いての処置。心優しきアルスラーンは、己の出自にずっと心が揺れています。ダリューンと鷹のアズライールしかいないことで、他の配下にも言えない本音を漏らして落ち込みます。この時のダリューンの返事が見事でした。
「殿下は このダリューンにとって大事なご君主でいらっしゃいます。それではいけませんか?」
「ありがとう、ダリューン」
ダリューンほどの名騎士が、アルスラーンに心酔して従ってくれています。それだけでもう、王になる資格があると思うんですよね。夕陽に照らされながら、静かに涙を流すアルスラーン。慰めるように「クー」と鳴くアズライール。二人(と一匹)の絆の深さが、心にしみる綺麗な締めでした。