読書芸人オードリー若林が小説家の生態に迫る『ご本、出しときますね?』の書籍版
〈小説家の生態は謎だ〉。そう考える芸人オードリー・若林正恭が司会となり、小説家の普段考えていることや創作方法に迫る文筆系トークバラエティ「ご本、出しときますね?」。昨年BSジャパンで放送され番組は終了したが、レギュラー回の模様を収録した書籍版が4月から配信開始されている。
若林+2名のゲスト小説家という構成で、鼎談が行われるこの番組。テーマとして出演者が用意してきた質問に、それぞれが答えながらトークは進んでいく。
たとえば、「嫉妬する作家はいますか?」という質問。朝井リョウは売れっ子の同期作家たちに〈嫉妬しかしていない〉とライバル心を燃やし、〈次は私やで!!〉なんて逆転する気まんまん。もう一人のゲスト・長嶋有は、自分には書けない視点で作品を書く作家に対して〈なんか「負けた」ってならない?〉と、負けは負けとして認める。そして負けたと感じた理由を律儀にも、共演者・視聴者に詳しく説明してくれる。
難しい文学用語や文学論が飛び交うわけではない。なのに、素朴な質問一つで作家の個性の違いが露わとなるのだから、何気ない一言も見逃せない。
さらに別のトークテーマとして、ゲストのマイルールも発表される。
「書くとは、世界と刺し違えること」藤沢周
なんてカッコよさげなルールもあれば、
「“人の為”にやらない」柴崎友香
といった処世訓的なルールもある。
「あきらめる」山崎ナオコーラ
は、もはやルールというより宣言だ。
中でも印象深いのが、角田光代・西加奈子ゲスト回での西のマイルール「“根はいい子制度”は絶対ではない」。
そのルールを決めた背景には、人がたまたま悪の部分を見せただけで「ほらみろ、根は悪いやつだ」と批判する、失敗や異物を認めない世の中へのいら立ちがある。似たような傾向がテレビ番組の中にもあると同調し、
〈「あいつは悪い人だ」って糾弾する人って、メチャクチャ自分のことを正義だと思ってる。自分にそういう部分がないと思ってるから。それって怖いよね。俺そのときのスタジオ、超怖いなってビビる〉
とぶっちゃけられる、若林の率直さがいい。
だけどそれに輪を掛けてすばらしいのが、
〈本当の悪人もいないし、善人ぶっている人もいないし、悪いけど、悪いだけの人もいない。それを配分していくのが小説だと思っています。だから西さんのルールは、そのまま小説のルールでもあるんでしょうね〉
という鋭い分析をさりげなく挟み込む、角田光代の凄み。
小説家ってすごい生き物だと感服する。