ちょっと特別な手土産『おもたせしました』王道の企み

「おもたせ」とは、相手が持ってきた手土産を、受け取った側が指す単語。
うめ『おもたせしました』の電子書籍配信が開始している。

取引先を日々訪れて回る、轟寅子。
彼女は必ず、ちょっと特別な手土産を持っていくように決めている。
基本、自分が食べたいものを買う。家の人に「おもたせですが」と誘われ、自分の手土産を食べる。それ絶対下心あるよね。

浅草「大多福」のおでんはツボに入っていて、味がしみている。
築地「つきぢ松露」のたまごサンドは、出汁のきいた卵焼きをパンで挟む。
「呼きつね」のお稲荷さんは、ご飯を熊本・南関あげで巻いたもの。
彼女は家の人と、手土産がらみの歴史や文学の話を交わす。

マンガ家の女性の家を訪れた時。
彼女は幕末舞台の料理マンガを描いて、ヒット中。
「今はもう猫も杓子もグルメ漫画。どの雑誌にも1つか2つは最低あるよ」「自分でもブームに乗った自覚はあるし、正直何匹目かのドジョウがいてよかったーとも思ってるし」
ここをつついて、世間からは作品叩きが、どうしてもあがりがち。

寅子は明治時代の作品、村井弦斎『食道楽』の話を持ち出す。
たくさんの料理レシピを物語に混ぜ込んだ小説だ。

ヒロインの若いお嬢様・お登和は、料理が上手で、しかも妹キャラ。
兄の親友でデブの大原と恋に落ちて、彼のための料理を作る。……ラノベか!
マンガでは「オレの妹がデブに手料理をつくるわけがない」なんて呼び方も。



無料版は読みやすくまとめられているが、「夏」がないのと、絵がないので、図版いりの原本版がオススメ。

『食道楽』は当時大人気になり、歌舞伎やゲームが出るほどに。
「つまり王道なんです。恋愛をしない人はいても、食べない人はいないですからね」

『おもたせしました』も、ベースは「食を巡って人がつながり、成長していく」という、王道作品だ。
それを「手土産」「文学的な歴史」というはっきりした切り口で描いている。
だから、読後しっかり印象に残る。んで、作中に出て来る文学に触れたくなるし、腹も減る。