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2017.05.09

マンガは、なぜ下書きみたいなラフ画じゃいけないのか『ドロユメ』を観て考えた

魅了された。
倉田青昴『ドロユメ』である。
下書きのような絵。書き込まれていない。
水彩ペンで、ざっくりとつけられた影。
冨樫義博『HUNTER×HUNTER』のジャンプ掲載時に間に合わなくてラフな下書き状態で掲載されたときの印象さえ受ける。
だが、これは間に合わなかったり、手を抜いているのではないことが、読みながら判ってくる。
なにもかもがあやふやで曖昧な世界だ。
無意識のうちにつねに脳が補完してしまう。
この描き方だから、この読み心地が生み出されるのだ。
こんなマンガ読んだことがない。

公園で発見されたきれいな素っ裸の遺体を見下ろすふたり。
他殺と思われる痕跡も、病死と思われる部位もみつからない。
死因が判らないのだ。
この男が、歩きはじめる。
振り返る途中の顔も、曖昧な線で、描かれている。
我々の脳は、ここでも勝手に、補完してしまう。
それが、恐ろしいことだと気づきながら。
対話は奇妙な方向にズレて(ときにそれがコミカルに思えるほど)、話がどこに向かうか想像ができない。
2巻では、雪の中、バスを待つ二人の会話が描かれる。
あれ、あの男の話ではないのか。
ふいをつかれるが、おそらく先の展開でつながってくるのだろう。
と、予測の形でしか書けないのは、まだこのマンガは4巻までしか出ていなくて現在進行形だからだ。
後からやってきた男が、自分を殺し屋だと言い始める。
本当なのか。そして、男の目的は何なのか。
自然な会話劇の中で、ゆっくりと真実がむき出しになってくる。
つねに、曖昧な部分が残り、次の展開を予想して、不穏な気持ちであると同時に、先を知りたいという好奇心を掻き立てられる。
3巻で、最初に登場した男の物語にもどる。
記憶を失っている。特殊な能力も持っていることが判ってくる。
謎の配置と、少しずつ暴かれてくる真相のバランスが絶妙だ。
現在の最新刊は4巻。
謎や、登場人物は、まだ増え続けている。
どこまで続くのか、どうなっていくいのか、最終的にどんなビジョンを見せてくれるのか、まったく予想できない展開に、魅了されている。

「Kindle Unlimited:読み放題対象」で読めるし、Kindle価格¥99だ。
ぜひ、読んでみてほしい。

と、がまんできなくなって同じ著者の『トーム』も読んでみた。
これは、『ドロユメ』の前日譚だ。
謎と謎のパーツがまた増えてしまった。
ああ、いつまでもいつまでも、この物語を脳が補完しようとしてしまう。
はやく、続きを。