「恋から」「まる見え」「ダーツ」を手がけた男が見た『たけし、さんま、所の「すごい」仕事現場』
『世界まる見え!テレビ特捜部』『恋のから騒ぎ』『特命リサーチ200X』『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』……。どれも日本テレビを代表する人気番組であり、『まる見え』『笑コラ』は20年以上続く長寿番組になっている。
これら全ての番組を手がけ、日本テレビのV字回復に大きく貢献した人物が吉川圭三だ。著書『たけし、さんま、所の「すごい」仕事現場』では、ビートたけし、明石家さんま、所ジョージといった大物たちとのエピソードを綴り、数々の人気長寿番組を生み出す秘訣を明かしている。吉川は、長寿番組になるか否かは「『初期設定』と『運営方法』で決まる」という。
例えば『恋のから騒ぎ』の出演者は、番組開始当初から「ゲスト以外は全員18歳から29歳の素人」「ただし水商売を除く」というルールを厳守していた。職業差別ではなく、より素人っぽさにこだわった結果だった。ルールを守るためには、オーディションで水商売か否かを見抜かねばならない。スタッフは仙台のキャバクラから五反田のスナックまで全国津々浦々に網を張り、各種AV雑誌の新人コーナーにも目を凝らした。
しかし、番組開始から5年目。抜群のトーク力で他を圧倒し、中心的な存在になっていた女子に風俗嬢疑惑が持ち上がる。調査網に漏れがあったのか? 視聴者からのタレコミを元に風俗店を訪れたスタッフは、指名通りに彼女が出てきたことに愕然。降板決定である。これにはさすがのさんまも「そやったかぁ〜」と無念さを隠せなかった……が、次の瞬間ニヤッと笑い「で、どやった?楽しんだ?」とスタッフイジりへ瞬時に切り替わったという。お笑い怪獣はどんな状況も笑いにしてしまう。
『世界まる見え!テレビ特捜部』では、ビートたけしが毎回奇抜な着ぐるみで登場するのがお約束。実はこの扮装、ドタキャンの常習犯だったたけしをスタジオに呼び寄せるための「餌」だった。毎回10点近くの衣装を用意し、その場でたけしが「これだな」と1点に決めるという。ボツになった衣装を含め、その費用は年間数千万円にもなったが、スタッフの狙い通りたけしは皆勤賞。バイク事故後の復帰一発目も、自ら巨大バイクにまたがり映画『イージー・ライダー』の衣装でスタジオに登場した。
吉川が手がけた人気番組は、どれも手間暇を惜しまない。『笑ってコラえて!』の「ダーツの旅」に至っては、一つの村にスタッフが10〜14日間泊まり込み、夜明けから日没までカメラを回し続ける。膨大な量のVTRから最終編集で残る村民は、100人に1人の割合でしかない。
吉川は「今放送されているほとんどの番組の演出・プロデュース方法全てに『思想』と『哲学』と『理屈』と『企み』を感じない」と言う。これだけのことをやっていれば、そうも言いたくなるだろう。では今のテレビにどんな活路があるのか。本書でも引用されている所ジョージの言葉に、ヒントがあるような気がした。
「人間は頭がいいから、明日のこととか、来年のことを考えちゃうでしょ?そうじゃなくて、もうちょっとバカになって、今日のことしか考えられないと、幸せになりやすいのにね」
わずかな視聴率の変化による一喜一憂や、炎上を恐れた厳格すぎるコンプライアンス。今のテレビを取り巻く面倒な「明日のこと」を考えすぎず、バカになって「今日のこと」に集中すること。
全国の風俗店をチェックするのも、衣装代に数千万円かけるのも、長期間村に泊まり込んで編集で一部しか残さないのも、面白いものを作るという「今日のこと」に集中した結果だと思うのだ。