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村上春樹『騎士団長殺し』を語っているうちに悪口になってしまうのはなぜか

人気対談「文学賞メッタ斬り!」シリーズの最新刊『村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!』が、4月14日より配信開始されている。
文学賞となると黙ってはいない。受賞作の予想で盛り上がり、手ぬるい作品や選考・選評に容赦なくツッコむ。それが大森望・豊崎由美の「文学賞メッタ斬り!」コンビ。相手が天下の村上春樹であろうと、権威におもねらないスタンスは変わらない。

最新作『騎士団長殺し』に加えて、村上春樹がここ10年の間に発表した『1Q84』(BOOK1〜3)『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』『女のいない男たち』についての対談を収録している本書。
果たして、二人の『騎士団長殺し』の評価はというと、
豊崎評は〈細かいところで気になることはいろいろあるんですけど、総じて好ましく読みました〉と、悪くはない。大森評も〈僕もよかったですよ。(略)総合力で考えると『ねじまき鳥クロニクル』以来かも〉と、なかなかの高評価。
今回は穏便に終わるのかと思いきや、対談も終盤……。
豊崎 うーん、おかしいなあ。喋れば喋るほど、大した小説じゃないみたいになっていくのはなぜ?
となっているのは、なぜ?

その答えが同じく『騎士団長殺し』についてネタバレ上等で討論した、米光一成・鴻巣友季子『村上春樹『騎士団長殺し』34の謎』(アオシマ書店)に隠されている。
途中に物語の矛盾を指摘した所で、こんな会話が交わされる。
米光 前提として言いますけど、村上春樹作品大好きなんですよ。
鴻巣 私も大好きですよ。
米光 だんだんね、ディスっている感じになってきているけれども、ちがうんです。そこも含めて好き。
そう、村上春樹の作品が好きな人ほど、読み込んでいるから当然美点も欠点も多く見つける。そしてダメな部分さえも、ツッコミを入れたり深読みをして楽しめることを知っている。だからこそ、指摘せずにはいられない。

あとがきで豊崎はこう書いている。
〈わたしたちには、皆さん同様、それぞれに大好きな村上作品があります。(略)新刊が出ればすぐ手に取ってきた村上春樹は、わたしにとっては重要な同時代作家です〉と。
なので、言うのだ。
『騎士団長殺し』で、キャラクターの造形に使いまわし感があることも。
主人公をモテ男にしがちな、〈村上春樹の渡辺淳一化〉が進んでいることも。
物語の整合性の取れてなさが、宮崎駿っぽい・ジブリっぽいことも。
主人公の〈私〉にとって都合がよすぎる展開の多いことも、
豊崎 選ばれし者ですよね、そこまでのことをイデアにしてもらえる〈私〉って。たぶん三十五億人に一人くらいの選ばれし者。
大森 ブルゾンちえみ(笑)。
なんて笑いも交えて言うから、批判でも湿っぽくはなく痛快な読み心地なのがいい。

対談の中ではあらすじ紹介に加えて、『騎士団長殺し』の中で起きた出来事を時系列でまとめた表も掲載されている。村上作品をこれから読む人へ向けた、ガイドブックとしてもお勧めだ。