フジテレビに没にされたシルバードラマ『やすらぎの郷』裏話を倉本聰が「週刊文春」でたっぷり
今クール最大の注目ドラマと呼ばれているのが『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)だ。
月曜から金曜まで『徹子の部屋』が終わった昼12時30分から始まる“昼ドラマ”。2クール6ヵ月、全130話の長丁場だ。すでに強力な裏番組を抑えて視聴率トップを取る異例のヒットを記録している。若者向けになりすぎたゴールデンタイムに対して、シニア世代向けにシルバータイムを意識したことが功を奏した。
75歳の石坂浩二をはじめとして、76歳の浅丘ルリ子、73歳の加賀まり子、86歳の八千草薫、75歳の藤竜也、77歳の五月みどり、85歳の有馬稲子、81歳の野際陽子、78歳のミッキー・カーチスら、出演者もシルバー世代の大御所ばかり。彼らが長年、テレビや映画の世界に貢献した人だけが無料で入れる老人ホーム「やすらぎの郷」でさまざまなドラマを繰り広げるというストーリー。
脚本はこちらも大御所の倉本聰。『北の国から』などで知られる大ベテラン脚本家でなければ書けないような芸能ネタが挿入されていることも話題だ。倉本が『やすらぎの郷』の裏側について、『週刊文春』5月4日・11日号でたっぷり語っている。
企画の始まりは倉本自身。彼のまわりに「朝起きて、やることがない」とボヤく老人が多かったので、彼らが楽しめるドラマを作ろうと思ったのだという。昨年のうちに4ヵ月かけて全130話分のシナリオを書き上げた。
それぞれが役者自身を投影したキャラクターを演じているのも注目を集めている。たとえば、石坂をかつて夫婦だった浅丘と恋人だった加賀が奪い合うという展開になったりする。恋愛の噂レベルがあるだけで事務所が共演NGを出す最近のドラマとはワケが違う。
脚本は全員キャストをイメージした“あて書き”。倉本が最初に企画を相談したのは浅丘ルリ子と加賀まり子で、彼女たちは大乗り気だった。石坂浩二は倉本ではなくテレビ局が決めたキャストだったが、「ルリちゃんとまりこの二人に聞いたら『全然大丈夫!』と言っていた。そこが大事なところで、彼らは過去の色々なことを超越しちゃった年代なのです」(倉本)。
実は、倉本は石坂が浅丘にプロポーズする現場にいた間柄。そもそも二人の出会いは倉本が脚本を担当したドラマ『2丁目3番地』なのだった。「四十六年前、僕は兵吉(石坂の本名)に『ルリ子にプロポーズに行くからついて来てくれ』と言われて行ったくらいなんですよ。僕の車で彼女の家まで行ったんです」(倉本)
キャスト陣の表も裏も知り抜いているのが倉本の強みだ。「僕は彼らの短所は大抵掴んでいます。本性と言うべきかも知れません。今回は彼らの短所を台本に書きました。人間のおかしみというのは、この短所からしか出てこないんです」(倉本)。
ドラマから異様な迫力が漂っているのは、このあたりが原因だろう。キャストの短所をそのままドラマに生かして、人間ドラマにしてしまっているのだ。ちなみに浅丘と加賀の短所とは、「ワガママで言いたい放題なところ」(倉本)だという。たしかに……。
物語の設定のきっかけになったのは、09年に孤独死した大原麗子の存在があった。一世を風靡した大女優が病死して一週間も発見されなかったことに倉本は衝撃を受けたという。もし、無料の福祉施設があったら、彼女が孤独死することはなかったのでは……。そこで芸能界のドン・加納英吉に無料の老人ホームを作らせた。加納のモデルについて、倉本は意外な名前を出しているが、これは読んでのお楽しみ。
倉本は企画をテレビ朝日の早河洋社長に直接持ち込んで実現させた。局内では反対の声もあったそうだが、早河が鶴の一声でGOサインを出したという経緯がある。
ところで、倉本が最初に持ち込んだのはテレ朝ではなく、フジテレビだった。「でも一発で蹴られました」と倉本は振り返る。「一週間もかからず、『ダメです』とだけ返答が来ました。あまり検討しなかったのでしょうね」(倉本)。だからドラマの中で「湾岸テレビ」への悪口を書いていると笑う。フジテレビは『孤独のグルメ』に続き、『やすらぎの郷』も逃していた! 『文春』の記事は、フジテレビの面々は「やすらぎの郷」に入れないだろうと辛辣に結んでいる。
ほかにも倉本聰ロングインタビューにはいいエピソードがいっぱい。ただ、ギャグやキワどいネタを拾って、ツッコミを入れるだけではもったいない。倉本の言葉とともに、じっくりとシルバードラマの滋味を味わってみるのも一興だろう。
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