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文春砲に怯えながらも「週刊文春」を読む芸能人たち。羽田圭介が赤裸々に描く『成功者K』

ここまで赤裸々で大丈夫なのか?
最近ではテレビ東京『ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z』の新レギュラーになるなど、タレントとしてもすっかりお馴染みとなった芥川賞作家・羽田圭介。先月発売された新刊『成功者K』は彼の芸能活動をもとにした、ドキュメンタリータッチの長編小説だ。

主人公は、芥川賞を受賞したばかりの男性作家K。
芥川賞の選考結果を〈D閣下〉のメイクで待つ画像がSNS上で話題となり、それがきっかけで地上波のバラエティ番組に出演すると、Kの生活は一変する。10年以上続く密着番組や大規模ドッキリ企画など出演オファーが相次ぎ、有名人の仲間入りをしたのだ。文芸のみならず芸能界でも成功者となったKだが、彼の成功はこれだけに留まらない。
Kはモテる。性欲の塊と化してファンの女性にまで手を出し、ついには女優の卵と付き合い始める。さらに株取引も絶好調、4日間で総資産は約1.3倍に膨らみ〈東証の狼〉を自称するようになる。

なのに、Kの気持ちは晴れない。
素人の好奇の視線が嫌で、外出には帽子とマスクが欠かせない。仕事の前は、アラームを5つセットしないと安心して寝られない。密着番組に女性との密会を隠し撮りされていないかと、不安になる時がある。タレント業が忙しく、執筆の時間も思うように取れない。
Kは思う。〈自分が目指している幸せの方向は、間違いなのではないか〉と。

K、そして読者にとって、成功とは何を指すのかがテーマとなる本書。そこでもう一つの読みどころとなるのが、Kの目にするテレビ業界の実態だ。

文春砲に怯え憎みながらも、結局は週刊文春を読んでしまう芸能人たち。制作側の意向に沿わないと、延々と続く番組収録。テレビ出演時のギャラの基準や、事務所に取られる比率。本書で描かれる業界の姿は、現役作家兼タレントが作者なだけに詳細で生々しい。ゴシップ誌をめくるような感覚で、どこまで本当なのかと推理しながら物語を楽しめる。

事実と捉えられたら、イメージダウンになるかもしれない。同業者・関係者が、どんな反応を示すかもわからない。そんなリスクなど眼中にないかのように、人間の下世話な欲望と華やかな世界の裏側を書いて書いて書きまくる羽田圭介。その姿勢は破れかぶれのものなのか?それとも計算ずくのものなのか?
〈そうだ、皆もっと、俺の発する言葉を信用しろ!俺が発する言葉だけが真実を伝えているのだから〉というKの不遜な言葉が、詮索好きな読者への挑戦状にも見えてくる。