「困るよ!」ゾンビに囲まれて今にも襲われるという時の告白は『生きてますか?本田くん』
終末ゾンビコメディ『生きてますか?本田くん』が3月22日から電子書籍配信されている。
明るくマイペースな少女・有栖。大きくて力持ちな少年・本田は、ある日唐突に彼女に告白する。
「本田くん……困るよ! こんな時に」ゾンビに囲まれて、今にも襲われるというところなのに。
本田は見た目は普通の男子。ところが危険を顧みず、やたら落ち着いてゾンビを処理していく。
脈はなく、体は冷たい。有栖は彼を、普通の少年だと思っている。
作中世界の残されている人間は、生き延びることをすっかり諦念。復興のための希望が一切ない荒廃っぷり。
そんな中もりもり無表情にゾンビを倒す本田。
別に人類を救おうとしているわけではない。彼が動くのはあくまでも、有栖が好きだから。
2人で塀を渡って移動している際、有栖の脚を引っ張ろうとするゾンビを見て、こう思う。
「あいつら、有栖さんのスカートの中を覗いてるんじゃないだろうな……」
彼の中の生死や危険の価値観は、どうにもズレている。
有栖は「普通の日々を保持することが生きること」という思想の人間だ。彼女は無駄としか思えない炊飯ジャーを抱えて歩く。
「世の中がこんな時だからこそ、みんなにもコレ(炊きたてごはん)を食べて、日常を感じて欲しいんだ」
ゾンビに対しても、それほど嫌悪感を抱いていない。
「この人達だって元は人間でしょ」「人でなくなったらそれまでの事が全て否定されるなんて悲しいよ」
生き残るために、元人だったものを「悪」として切り捨てるべきか。
ゾンビものにおけるテーマを、本田が人なのかゾンビなのかぼかすことで、じわじわ浮き彫りにする。
有栖は今のところ、本田を人だと信じきっている。
仮にゾンビかなにかだった場合。生存者が彼を受け入れる否かは、あふれかえる「人だったもの」とどう距離をとるか、噛まれた人間は救うべきか見捨てるのか、という問題につながっていく。
本田は、ゾンビを退治するところを、有栖に見せないようにしている。
ゾンビはあくまでも人間であるから助けたい、と考える少女たち。ゾンビを排斥しようとする政府。人間のマイノリティとして描いたコメディ『ゾンビが出たので学校休み。』と比較して読んでみると面白い。
ゾンビもオタクも理解できないからって追い出すのか?『ゾンビが出たので学校休み。』 アオシマ書店