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変な話思いついてそのまま描いたような気楽さも。五十嵐大介最新短編集『ウムヴェルト』

今となっては長編も多数手がける五十嵐大介だが、実は短編も抜群に上手いのは広く知られるところ。かつて発売された『はなしっぱなし』や『そらとびタマシイ』などの短編集ではなんとも言えない読後感の奇妙な短編を多数発表している。

そんな五十嵐の最新短編集が『ウムヴェルト』である。2004年から2017年にかけて、断続的に発表されてきた10本の短編を収めた一冊で、長短様々ながらいずれも奇想に満ちた内容だ。

通して読んだ時に強い印象を残すのは、五十嵐が「人間とは全く尺度の違う感覚を持った存在」を一貫したテーマとしていることだ。収録作でいえば「ガルーダ」では人間よりもずっと巨大な時間軸と死の関係を、「マサヨシとバアちゃん」では歳をとって極小の存在へと変わっていく祖母を通してやはり死と感覚域の関係を描いている。また現在月刊アフタヌーンにて連載中の『ディザインズ』の原型となった表題作「ウムヴェルト」では世界を知覚する方法が人間と大きく異なる”人間化された蛙の少女”との戦闘を通して人間の感覚の貧弱さとその外側の可能性が表現されている。

このように一貫したテーマに沿って見ていくと、人間よりずっと大きな存在とそれに対する人間のおごりの愚かしさを描いてきた五十嵐が、切り込み方をこの10年あまりでグッと深くしてきたことがわかる。ぜひとも過去の短編集や『魔女』『海獣の子供』などの諸作品と読み比べてほしい。


また、『はなしっぱなし』的な、変な話を思いついたからそのまま描いたという雰囲気の作品が収録されているのも楽しい。「ツチノコ」や「鰐」、「鬼、来襲」あたりの作品はまるで民話のような不思議な読み心地で、「そういえば五十嵐大介ってこういう短編を描く人だったなあ」としみじみしてしまった。そういった点も含め、この類い稀な作家を語る上で欠かす事のできない一冊であることは間違いないだろう。