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『この世界の片隅に』に並ぶ焼け跡の物語を読め「あれよ星屑」6

終戦直後を舞台に、死の影を振り払うことのできない復員兵川島徳太郎(渋いハンサム)と同じ部隊だった気のいい暴れん坊の黒田門松(髭面のクマみたいな大男)をめぐる悲喜こもごもを描いた「焼け跡オブロマンス」の第6巻。

前巻のラストで暴れる復員兵を射殺した米軍のMPに対し発砲、その場で射殺された川島の父。そんな死に様を「日本軍人の鑑」と褒め称える門松と「どうしようもない男」と吐き捨てる川島。そんな父の葬儀から6巻は始まる。

父の葬儀の後、何かを思いつめた表情で東京を後にしてなにか目的をひめた旅に出る川島。一方の門松はヤクザな仲間が持ちかけた進駐軍相手にエロ写真を交換するいかがわしい取引に(積極的に)巻き込まれ、気がついたら男同士での絡みを強要されるハメに! 果たして門松は無事に生還することができるのか、そして川島の旅の目的は一体なんなのか。

これまでも過去と現在を往復しつつ、どうしようもなかった戦時中の陰惨な出来事と、ヤケクソ気味なパワフルさと哀愁に満ちた戦後のストーリーが交錯してきた「あれよ星屑」。クライマックスに近づいていることもあり、6巻では過去と現在の距離が一気に近づき、川島と門松があの戦争を総括するための旅が始まる。その一方で「あれよ星屑」の持ち味でもあるあっけらかんとしたエロスとセクシャルな肉体描写は健在。特に6巻ではエロ写真の取引現場での大立ち回りでその魅力を存分に味わうことができる。

それにしても著者の山田参助の器用さには舌を巻く。これまでの巻でもバロン吉本、水木しげる、つげ義春、辰巳ヨシヒロなどなどの貸本漫画や劇画のタッチを秀逸に自らのものとしてきた山田だが、6巻でもその筆致は冴え渡っており、シリアスとユーモアを激しく振幅するストーリーに合わせて変幻自在のサンプリング具合で絶妙に読者を酔わせる。特に門松が「亡霊」としか呼びようがないものに対峙するシーンは迫力満点で、ホラー劇画のような印象だ。また、ギャグシーンではぬけぬけと朗らかなトーンに切り替わり、改めてその手管には感心する。

次巻で完結となることが明らかになった「あれよ星屑」。断言するが、今から一気読みしてでも追いついてほしい名作である。『この世界の片隅に』と並ぶ、真摯な語り口で描かれる焼け跡の物語は、読者に必ず強い余韻を残すはずだ。