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下乳とは何か。葉加瀬マイ『まみれる』に宿るカメラマンの執念とその正体

下乳から背中にかけて、くっきりと下着の跡がついている。
腕を上げたときに、肩に寄った肉もそのまま見せてしまう。
軽く閉じた腋のしわ3本だけをアップにした写真もある。

例えばアイドル写真集であれば、そういったノイズは写らないようにしたり修正したりするかもしれない。
しかし、写真集『まみれる』には「この跡や肉を見せたい」というカメラマンの意思を感じる。
写真家の名前を二度見した。
放送作家・小山薫堂。熊本県のゆるキャラ「くまモン」の生みの親だ。

大きく広げた太ももを腹部に押し付けると、股間にかけてなめらかで柔らかそうな曲線が生まれる。
ずり下げようとした下着から、ゴムの跡とホクロがのぞく。
すくって塗りたくった泥が、おっぱいの肌のキメや手のしわ1本1本に入り込む。
葉加瀬マイの表情には笑顔も挑発もほぼない。つるりとした人形のような顔とうらはらに、その体が「生身であること」を訴えてくる。面白い。

表紙に大きく写された汗をかいた裸体。
電子書籍で拡大してよく見ると、汗孔の1つ1つから吹き出る汗を撮ろうとしていることがわかる。
ツルツルとした肌の女性が好きな人もいるだろう。
しかし、写真家・小山薫堂がエロスを感じたのは、体に付いたしわや毛穴、肌のキメといったその人特有の肉体らしさなのだと思う。

小山薫堂と聞くと、くまモンとハグをしている眼鏡のおじさんの優しそうな笑顔が思い浮かぶ。
「小山さんが最初、恥ずかしそうな様子だった」と、被写体となった葉加瀬マイが語っていた。
彼はどんな表情で撮影をしていたのだろうか。
写真家の表情、撮影現場の空気感まで想像したくなる、人の息遣いを感じる写真集だ。