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今だからこそ読みたいマツコの素顔。『うさぎとマツコの往復書簡』に見る二人の生生しい人生の哲学。

2009年に「サンデー毎日」で連載されたコラムを書籍化したもので、手紙を送りあうように交互にコラムを執筆していくという内容です。

自分の欲望を隠すことなく貪欲に求めてきた中村うさぎと、性的マイノリティーとして生きてきたマツコ・デラックスが、他人の目を一切気にせず自分の本音をぶちまけていきます。

読んでいてこちらが戸惑ってしまうほど真剣にやりあっていて、これ修羅場じゃないか? こんなこと書いていいのか? と思う場面が何度かあります。

柔らかい物腰と的確でウィットに富んだ発言で人気を博し、今やテレビで見ない日はないマツコからは想像出来ないかもしれませんが、コラムのなかのマツコは中村うさぎの発言に食って掛かり喧嘩をふっかけたり、中村うさぎから鋭いツッコミを受けてうろたえ、自問自答します。

この書籍は、両者の力が互角だからこそ面白く、その点、中村うさぎと互角にやりあえるのは、マツコ・デラックスぐらいではないでしょうか。

中村うさぎは客観的な感覚を持ちながら、ブレる事のない自分の感性を信じています。彼女はファイターのように目の前にある敵をぶっ潰すような勢いで女性差別や社会の在り方の矛盾を容赦なく叩きつけてきます。

彼女のコラムを読んでいると自分の価値観や思想がグラグラと揺れて疑問や葛藤が生まれ、こんなにも自分が政治、女性、社会に対して無頓着だったのかと気づかされます。

一方でマツコは冷静沈着ですが、相手の隙や矛盾に対して確実に詰めていきます。マツコも中村うさぎ同様に洞察力が高く、知識も深いうえに、相手の言動や考えを的確に把握していて、中村うさぎに対して決してひるみません。その一方でこういう解釈だってできるんじゃないかしら?とさとすような場面もあり、マツコのコラムはどこか優しい印象を受けました。

そんな状況をすごく楽しんでいる様子も垣間見れて、絶対敵にまわしたくないなと感じる二人です。

一方で、自分に正直に生き、常識に染まらない生き方を選んだ事によって支払うことになった代償についても二人は言及しています。

唯一無二の存在として自分を位置付け、他者とのかかわりを避けてきたが故の虚しさと焦燥感。二人にしか語れない人生の影の部分を本書を通して知ることが出来ます。

これが私よ!といった感じで、中村うさぎはかなり肝がすわっていますが、マツコは寂しさと不安を拭えない姿がどこか人間臭さを感じさせます。

マツコがテレビに出はじめた頃、マツコのキャラクター性に衝撃と好奇心をそそられたことを今も覚えています。

それだけに、本書でマツコの繊細でナイーブな感性を知ったときはすこし意外な気持ちにもなりましたが、同時に親近感を持ちました。

今ではケーキやらラーメンやらポテトサラダやらを食べては一般人と激論したり、芸人さんやアイドルたちとコメントを取り合っている姿を見ていると、本当にただ者ではないなと感嘆します。

テレビで見る面白くて賢いマツコもいいですが、本書を通じて、弱くて、寂しがり屋で、どこか冷めてて、イジワルで、優しいマツコも知ってみてほしいのです。きっとあなたは、今よりもっとマツコを好きになるはずです。