• トップ
  • 新刊情報
  • 誘拐した14歳の少女は「助けてくれた」と言った『幸色のワンルーム』

誘拐した14歳の少女は「助けてくれた」と言った『幸色のワンルーム』

Twitterとpixivで話題になった『幸色のワンルーム』の単行本の配信がはじまった。

「お兄さん」は、14歳の少女を誘拐した。
少女は「お兄さんは私を助けてくれた」と言う。

彼女の体は、頭から足の先まであざだらけ。
両親から暴行を受け続いていた。
学校ではいじめられており、居場所がない。
教師は彼女を助けるといいながら、性的行為を強要する。
虐待といじめのことは全部、隠蔽されたまま。

誘拐犯のお兄さんは気が弱い。ずっと少女を盗撮していたストーカーだ。
誰かに愛される、という経験がない彼女。
お兄さんが、いびつながらも好きになってくれたことで、はじめて喜びを感じた。

少女は言う。
もし警察と両親から逃げ切れたら、結婚しよう。
逃げ切れなかったら、一緒に死のう。
人目を避けた、共依存生活がはじまる。

作品全体の空気は明るく解放的。
なんせ暴力しかない世界で、一般常識を一切知らず育ってきた少女だ。
彼女ははじめて普通の料理を食べて驚く。
買い物の仕方すら知らない。
見聞きする「普通」が全て、新鮮に見えている。

誘拐とネグレクトを題材にしているこのマンガ、本質は王子様とシンデレラの物語だ。
お兄さんに救い出された(誘拐された)ことで、少女は「こんなに幸せでいいんだろうか」と考えてしまう。
幸せ慣れしていない状態。もし彼女が「幸せ」への視野が今後広がったら、魔法は簡単に解けてしまう。

共依存が成立しているのは、童話の王子様の如く、お兄さん側の性欲描写が削ぎ落とされているからだろう。
彼もまた、少女との生活をそこそこに送ることに縋っている。だから、少女の本心、誘拐犯と被害者という現実に、深入りしようとしない。

周辺の人の通報で、あっさりバレるような雑な軟禁生活。
本当はワンルームの外に出ればたくさんの幸せがあるはず。
でも外には居場所がないと悟りきっている2人。
少女は逃げ出すこともなく、部屋の壁を2人の写真で埋め尽くしたい、とだけ願う。