「電子書籍の購入は作者の応援にはならない」の嘘

「1週間以内に本屋で買ってくれないと重版されない」って脅されると買いたくなくなる
って記事を書きました(以下、「1週間以内…」と略します)

ざっくりまとめると、

「1週間以内に本屋で買ってくれないと重版されないのでお願いします」といった宣伝ツイートを見ると、
「なんで、そんなそっちの勝手な都合を押し付けるの?って思って買うのやめたことある」
って言ってる人に少なくとも3人は会った。

ということを書いた記事です。

これが賛否両論、たくさんのリアクションをいただきました。

ぼくの書き方が甘いせいか誤解されてしまった部分があります。

「脅しのような宣伝ツイートがあると買う気がなくなるという人は、はなから買う気がないだろう」
という意見をいただきました。

「そういう層ははなから買わないから相手にしなくていい」といった意見もありました。
編集者だと名乗っている人で、同様な意見がありました。

1週間以内…」の記事で「買うのやめたことがある」と発言した3人は、ぼくの知り合いです。
そして、3人は、「ちょー」がつくほどの本好きです。

ひとりは、毎月30冊以上、本を買っている。
「1週間以内に本屋で買ってくれないと重版されないのでお願いします」といったツイートを見て、がんばって買っていた時期もあったそうです。
だから、「そんなことを言うヤツは、はなから買わない」というツイートを見て、その誤解と偏見に傷ついていました。

もうひとりは、近所に大きな書店がないので、一ヶ月に一回ぐらい都心の大型書店に買い出しに行くタイプ。
買い出しに行くと、多いときは数万円使ってしまう。
こちらも大の本好きです。
コミックスなどは、Amazonで買うことが多いそうです。
という状況なので、「1週間以内に本屋で買ってくれないと」と言われても、なかなか難しい。
「近所の本屋で注文しろ」という意見もありますが、書店で注文すると10日以上かかってしまうことがある。
そうなると、やはり早く読みたいものは、Amazonで買うことが多くなってしまう。
電子書籍があれば、もっと助かる。
すぐに読めますからね。

また、これは、ぼくもそうですが、
本好きであればあるほど、部屋の収納スペースがヤバイ
本だらけなのです。
欲望のおもむくままに紙の本を買っていたら、そろそろ床が抜けます。
できることなら、電書で読みたい。

こういった読者を、「相手にしなくていい」という編集者が実在するとすれば、それは悲しいことだと思います。

読書のスタイルや、環境は、ひとそれぞれ違います。多様です。

もうひとつ。
1週間以内…」の記事で“一部の出版業界が厳しくなってきて、長い目で見ることができない現場も出てきた”と書きました。
「一部の」にストロングタグを(紙の本なら傍点を)つければ良かったな、と後悔しています。

ちゃんと電書の売り上げをチェックして、計算に入れている出版社や編集者もたくさんいます。

「電子書籍の購入は応援にならない」というのは嘘です。
少なくとも、応援になるケースはたくさんある。
もちろん、そうならないような判断しかしていない出版社や編集部があるのは事実でしょう。
だけど、それは、あくまでも「一部の」です。

電書を無視したり、一週間だけの書店の売り上げてモノゴトを決定しているのは、あくまでも「一部の」です。
出版社や編集者は、多様なやり方で、さまざまなチャレンジをしています。
それが、できるような環境も整ってきました。
むかしは、装置産業だと言われていた出版界も、大きく変わってきています。
年に十数冊も担当するのだから大事に既刊本をみていられない、っていう編集者ばかりではありません。
「編集・ライター養成講座 米光クラス」という講座をやっていて、多くの編集者が「よい書き手はいないか」と遊びにきてくれます。
そういった熱心な編集者は、みんな電子書籍についても考えているし、無視したりしていません。
ましてや一週間だけの売り上げでモノゴトを決定したりしていません。
長い視点で考えて行動している人や、電書を売る仕掛けを考えたり、電書から紙の本につなげる方法を試してみたりしている編集者や出版社は、たくさん存在します。
そのことを忘れないようにしたいです。
現役編集者であろうとも、その人の現場が、出版界全体のように語られることは、あまりにも粗暴だと思います。