2017.01.31
受験シーズン到来!志望校に合格したければ『挾み撃ち』を読むべし!?
「内向の世代」を代表する小説家・後藤明生の代表作『挾み撃ち』は、このような文章から始まります。
〈ある日のことである。わたしはとつぜん一羽の鳥を思い出した。しかし、鳥とはいっても早起き鳥のことだ。ジ・アーリィ・バード・キャッチズ・ア・ウォーム。早起き鳥は虫をつかまえる。早起きは三文の得。わたしは、お茶の水の橋の上に立っていた。夕方だった。たぶん六時ちょっと前だろう。〉
主人公の「わたし」は、なぜ「その橋の上で、とつぜん早起き鳥を思い出した」のか? それは20年前の出来事にさかのぼります。
〈次の和文を英訳せよ。《早起きは三文の得》〉
第一志望だった大学の入学試験で、この問題に答えを書き込むことができなかった「わたし」は、見事、不合格。1年の浪人生活を送ることになります。そして、とつぜん思い出した「早起き鳥」とともに、その時に着ていた「旧陸軍歩兵用の外套」の行方のことが気になります。
〈あの外套はいったいどこに消え失せたのだろう? いったい、いつわたしの目の前から姿を消したのだろうか? このとつぜんの疑問が、その日わたしを早起きさせたのだった。〉
そのようにして主人公の「外套」を探す旅が始まります。
大学浪人の時期に過ごした埼玉県の蕨を訪ね、さらに、生まれ故郷の北朝鮮・永興で敗戦を迎えたときのこと、日本に引き揚げ中学・高校を過ごした筑前などの記憶を思い出しながら話は次々に脱線を繰り返します。そんな現実世界だけでなく、ロシアの文豪ゴーゴリの『外套』や永井荷風の『濹東綺譚』といった小説世界にまで話が脱線し……。
粗筋を説明するのが、なかなか難しい小説なのですが、大学受験のシーズンを迎えると、あるいはお茶の水の橋の上に立つと、きっとあなたも「ジ・アーリィ・バード・キャッチズ・ア・ウォーム」という慣用句を思い出してしまうでしょう。
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アーリーバードブックス:ツカダマスヒロ(編集・制作担当)