テムはクラスメイトに惨殺された『BEASTERS』
学校の中で、テムは死んだ。
クラスメイトに殺された。
学校の中は大騒ぎだ。
テムの友人レゴシの所属する演劇部も、この事件以降真っ二つに別れた。
「部員が死んだ日に、どうして言い争いが起きるんだよ…これが強豪演劇部の実情か……」
信頼関係は一気に崩れた。
肉食獣と草食獣は、所詮一緒になんていられないんだろうか。
弱肉強食だから当たり前、ではない。
ハイイロオオカミのレゴシたちの学校は、あらゆる種族の動物が通っており、きちんと法で守られている。
肉を食べるのは重罪。草食を傷つける肉食は、退学処分など厳罰。
食べ物はあらゆる種族が栄養がとれるよう、完備されている。
生きる上では、草食も肉食もちゃんと満たされた環境だ。
となると「襲う」「殺す」「食べる」というのは、欲望の問題だ。
個人の力の差で起きてしまう暴力事件。
種族による偏見・差別。
人間社会で起こる問題を、動物の姿で隠喩している。
草食獣の間でうわさが立てば、レゴシのようなオオカミは真っ先に後ろ指をさされる。私達もエサだと思って狙っているんだと言われる。
冤罪だ。
だが、オオカミがウサギを抱きしめたら、その爪が食い込んで、死んでしまうかもしれない。「怖い」という気持ちは、決して責められない。
力あるものは、それだけ自分を制御して生きていくしかない。
人間は肉食獣以上に、簡単に人間を殺す手段を持っている。
人を傷つけてはいけないと法で決まっている。理性で「いけないことだ」とわかっている。だからしない。
レゴシたちも同じだ。ルールをちゃんと守り、相手の気持ちを考えるから、今まで誰も襲うことはなかった。
ふっと芽生える「噛みつきたい」という衝動に怯える日々。
レゴシは怖がられ、嫌われつつ、今日も演劇部に向かう。