• トップ
  • 新刊情報
  • 「レズ風俗」作者の描く自分と自分の交換日記『一人交換日記』の苦しさ

「レズ風俗」作者の描く自分と自分の交換日記『一人交換日記』の苦しさ

「さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ」で、「このマンガがすごい!」オンナ編第三位を受賞した、永田カビ。
作者が「自分と自分」の交換日記を描いたのが「一人交換日記」。12月10日から電子書籍配信が始まっている。


「レズ風俗〜」は、鬱病の作者が人との距離感を全く測れなくなり、迷走していた時の渇望を描いたエッセイ。どんどん蓄積するストレス。どうしても抱きしめられたい。追い込まれた中、一念発起し、レズ風俗に。
物語としてみると「レズ風俗〜」は、一歩踏み出した解放感に満ちているので、気持ちがいい。

しかし「一人交換日記」は、読後の爽快感はほぼない。
精神状態の問題について、解決しないどころか、悪化している。
あえて、ハッピーエンド感を持たせることをしていない。
鬱時の思考の、堂々巡りな苦しみを、ありのままに描こうとしている。

作者は、自己分析した抽象的なことを、具体的に表現するのがうまい。
例えば「レズ風俗〜」が出版された時の話。ネットではあらゆる場所で紹介され、本も一瞬で売り切れすぐに重版、電子書籍配信を前倒し、という事態になった。
しかし、その喜びを受け止められない。
「ずっと求めてきたはずの幸せが今、まさに注がれているのに、私は穴のあいたバケツかふたのしまったビンのようで、こぼれていって空っぽのまま」
作者の自画像は、目の前にある花束を受け取れず、ふさぎ込んでいる。
それどころか、褒める言葉が多いネットで、否定的な感想をエゴサーチするという自虐行動に出る。

「「幸せ」って要するに「今、この世にある不幸を無いものとすること」」だと言う。
世界中には悲惨なことが多い。ただ、それを考えていると日常に支障が出るから、考えない。
作者はこれを、ぶら下がっている首吊り自殺者を見ず、その木になっているりんごを見て喜んでいる状態として、表現している。

鬱思考との戦いは、そんな美しくない。どうにもならないことの方が多い。
それを書き留めるための、交換日記形式。
人生は必ずしも、カタルシスがあるわけじゃない。