• トップ
  • 話題作
  • 「響け!ユーフォニアム2」今夜「安全な場所から見守る人間に、本音を見せてると思う?」

「響け!ユーフォニアム2」今夜「安全な場所から見守る人間に、本音を見せてると思う?」

「響け!ユーフォニアム2」原作者の武田綾乃は、アニメ10話についてこんな感想を述べていた。


今夜放送の11話前に、メインの声優・黒沢ともよと寿美菜子の演技がすごかった、10話を振り返ってみたい。
見逃した方はニコニコ動画AbemaTVでチェック!

●姉は味噌汁を焦がした
大学をやめて美容師になりたいと騒いでいた、久美子の姉の麻美子。
父からは8話で「自分に都合が良すぎる」と叱られ、言い返すことができなかった。

姉は実家を出ていくことに決めた。
その時に家族に作ったのが、味噌汁。
失敗して、ナベを真っ黒に焦がした。

姉が出ていった後。久美子は最後まで、自分の思いを伝えられなかったことを、悔やむ。
通学の電車の中。
人がいっぱいいるのに、大好きだった姉のことを思い出して、涙が止められなくなる。
嗚咽を漏らす。
「私もさみしいよ」

ナベの焦げはなかなかおちない。頑張ってこすって、ようやく落ちる。
麻美子と久美子も、長い間のしがらみが、こびりついた焦げのようにようやく、落ちた。

焦げの取れたナベには、こすった傷がついた。
久美子と麻美子にもそれぞれ、消えない傷は残った。
完全に子供の時のように、元通りにはできない。

●久美子が本音を出した日
黒沢ともよ「いい子にならなければいいなと。音響監督の鶴岡(陽太)さんも、”くえない女の魅力を出したい”とおっしゃっていて。きゅるんとかわいい感じではないところで魅力を出そうと思いました」(CDジャーナル2015年8月号)

黒沢「よくありがちな一生懸命に頑張っているだけの主人公にはしたくないと思っていました。普通の女の子のようでいて、けっこう冷めたところもありますし」(「響け!ユーフォニアム」オフィシャルファンブック)

基本久美子は、テンションが高くないし、低くもない。常に俯瞰して、人と距離を置いている。
特に家族や幼馴染に対しては、かなり喋りがぞんざいだ。
友達といる時も、淡々と自分の感情を交えず、聞き役にまわりがち。
黒沢ともよは、この煮え切らない高校生のモヤモヤ感を、トーンをおさえ抑揚を作らない声で演じている。

彼女は相手に対してブレーキを踏むクセが災いして、姉との別れの際、気持ちを伝えられなかった。
だから、退部寸前の田中あすか先輩に対しては絶対譲らない決意をしている。

「子供で何が悪いんです、先輩こそなんで大人ぶるんですか、全部わかってるみたいに振る舞って、自分だけが特別だと思いこんで、先輩だってただの高校生なのに」「我慢して諦めれば丸く収まるなんてそんなのただの自己満足です、おかしいです、待ってるって、言ってるのに」「私はあすか先輩に本番にたってほしいあのホールで先輩と吹きたい先輩のユーフォが聞きたいんです」
普段から想像できないような、1期11話以来の絶叫だった。
黒沢ともよの演技は、文字通り息継ぎする間もない。

最終的にすごくシンプルな「あすか先輩と一緒にコンクールに出たい」という感情に絞られる。
ここまでいろいろ複雑な考えをかなぐり捨てたのは初めてだ。姉や秀一にすら、ここまで思いを形にはしていない。

おそらくこの後また、久美子の声はローギアに戻るだろう。
ただし、自信を持って話す、重みのあるローギアになるはずだ。

●本音を知らない少女、あすか

3年生の副部長田中あすかを演じている寿美菜子。
「見た目も美人なので、最初はすごく面倒見のいいお姉さんなのかと思いました」と1期のオフィシャルファンブックでは語っていた。
ところが2期に入ってくると、イメージと違う危うい部分がボロボロ出始めてくる。

「コミュニケーション障害を持っている子」、というのはシリーズ演出の山田尚子の談。(アニメスタイル007)
喜びや哀しみも、怒りすらも見せない。表情と感情がリンクしていない。
原作外伝では、3年生の葵が部活を辞めることに対して「一人ぐらいいなくなっても全然問題ないよ」と発言をしている。

空気が読めていないのだ。
彼女は器用だ。「空気が読めない自分」を客観的に捉えて、状況に適した言葉で場を濁す。

寿美菜子の演技はそれを表現するため、劇中劇のようになっていった。
声の抑揚が激しく、おおげさ。でもあすかの気持ちそのものではない。
あすかは、常に「特別なあすか先輩」を演じていた。

久美子があすかに、コンクールに出るよう訴えた時。
感情論を、正論で潰していく。
「境界線ひいて、踏み込むことは絶対にしなかった。気になって近づくくせに、傷つくのも傷つけるのも怖いからなあなあにして、安全な場所から見守る。そんな人間に、相手が本音を見せてくれてると思う?」
これは久美子のことであり、同時に人を信じない自虐でもある。

酷く傷つける言葉なのに、表情が変わらない。とても本心に見えない。
久美子がめげずに本音をぶちまけてきた時。直球の感情を受取りなれていない彼女の仮面に、はじめてヒビが入る。
その時の、たった一言の「嬉しいな」が、貴重な彼女の本心だ。

部に復帰してからの彼女の顔は、今までにない「高校生」の、笑わない素の表情だった。
特に自分の代打として控えていた中川夏紀への「ごめん」は、今まで人に聞かせたことのない口調だ。

もっとも、一朝一夕で母の呪縛とコンプレックスは消えない。
人との距離感の測り方は、あすかが一生規模で考える問題になるはず。
そのきっかけを高校時代に得られたのは、彼女の財産だ。

にしても、今回の裏の功労者、中川夏紀先輩はもっと幸せになってほしい!
彼女も久美子同様、人をつないで支える、ユーフォみたいな子。2年生の優子も、1年生の葉月も、そして3年生のあすかも、彼女の本音に、ものすごく救われている。
だから久美子も今回、あすかへの説得の際、彼女のことを真っ先に信じたのだもの。

11話は、今回一言もしゃべらなかった麗奈の恋の話。大吉山再び、かな……?

今夜スタート「響け!ユーフォニアム2」青春はやり直せないことだらけだけど、1期を振り返ってみた

初回からタブーに踏み込んだ「響け!ユーフォニアム2」

「響け!ユーフォニアム2」2話。吹奏楽部崩壊といじめの傷跡
「響け!ユーフォニアム2」3話。うざい先輩って、正直な人ってことだよ
「響け!ユーフォニアム2」4話。人って打算的に動くもの、かなあ
「響け!ユーフォニアム2」5話。金で喜ぶわけにはいかない
「響け!ユーフォニアム2」6話。大事なものを喪失したら
「響け!ユーフォニアム2」7話。優子「あんまり舐めないでください」
「響け!ユーフォニアム2」8話。これから全国大会だというのに暗雲が
「響け!ユーフォニアム2」を見逃すな「ギュッと捕まえて、その皮剥がしてやる」