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「響け!ユーフォニアム2」を見逃すな「ギュッと捕まえて、その皮剥がしてやる」

今夜放映の熱血根性吹奏楽アニメ「響け!ユーフォニアム2」先週は9話。
今回は、親に禁止されて部に来られなくなった田中あすか先輩と、主人公・黄前久美子が一対一で話しあう回。
見逃した人はニコニコ動画AbemaTVで見られます。

ユーフォニアムという楽器

あすかは、久美子のことを「ユーフォっぽい」と言った。
ユーフォっぽいってなんだ?

ユーフォニアムは正直、知名度が低い。
「吹奏楽のなかでは中低音を担当。その柔らかい音は「ビロードのよう」と表現され、意外に速いパッセージ(注・旋律音の間をすみやかに、経過的に動く音のこと)をこなす機動力もあります」(「響け!ユーフォニアム 北宇治高校の吹奏楽部日誌」より) 
 
ソロも多い。伴奏も対旋律もこなす。忙しい。

曲の中では、基本メインにはならない。
かといって「縁の下の力持ち」というほどベースな位置でもない。
ソロを吹いたりパッセージをこなしたりと、出番が多く、主旋律を支える。7話でバリサクソロの小笠原晴香は、ユーフォのあすかに「支えてね」と言っていた。

今までの久美子。
彼女が部で、トップに立って何かをすることはなかった。
特別でありたいと願うトランペット高坂麗奈は久美子を信頼し、久美子は麗奈を全力で応援してきた。
2期では、希美、みぞれ、夏紀、優子と、行き違いでもつれてしまった2年生の間を走り回って、皆をつないでいった。

9話では、はっきりと自己の気持ちを、あすかに言う。
「私、あすか先輩のユーフォが好きです」「私大好きですよあの曲。ずっと聞いていたいです、今吹いてほしいくらい!」
自分から相手の内面に踏み込み、引き立たせようとしている。
「あすかの気持ち」という主旋律に対しての、対旋律・オブリガードとしての行動だ。

「黄前さんらしい」

9話では何度も「黄前久美子らしさ」という表現が出て来る。

・高坂麗奈
親友であり、同学年の麗奈。
「久美子ってなんかひっかかるの。普通のふりして、どこか見透かされてるような。気付いてなさそうで、気づいているような。そして一番痛い時にポロッと言葉になってでてくる」
「だからなんかひっかかる。ギュッと捕まえて、その皮剥がしてやるって」
久美子の「食えない」ところへの指摘。
麗奈のように我が強い子でも、ふとした瞬間に牙をむいてくる(本人は意図してではないけど)ところが、気になって仕方ない。1期では「性格悪い」とまで言っていた。

脚本・花田十輝「久美子に関してはこういった状況だったら、普通はこう思うだろというのを素直に書けたんです。普通はアニメで、こんなふうに他人に冷や水をぶっかけるような事を思ったり、言ったりしないよというセリフを言える面白さと快感。」(アニメスタイル007インタビューより)

久美子は話が進むに連れ、ちゃんと考えて主張をするようになった。しかし冷や水をかけるうっかりは健在。その失言が、相手にはたいてい図星。
麗奈もあすかも、「久美子なら本音を言ってくれそう」という思いがある。

・中川夏紀
同じユーフォニアムパートの先輩。今は「久美子の良き姉御」的ポジション。クールだけど、友達への情に厚く、みんなのフォロー役になっている。
彼女もまた、ユーフォっぽい子だ。
「本当に今までうまくやってきたよ。高坂さんの時も(注・滝先生の噂でトラブルがあり、麗奈と香織が再オーディションをした件)みぞれの時も(注・希美の部の復帰で、2年生の人間関係が揺れた件)」
「あすか先輩がどうして黄前ちゃんを呼んだと思う?私は黄前ちゃんならなんとかしてくれるって、期待しているからだと思う」
夏紀は今、非常に不安定な位置にいる。
あすかが戻ってくれば、彼女は練習したのに全国大会に出られなくなる。
あすかが戻ってこなければ、練習した自分は出られる。
デリケートな問題なので誰も触れなかったが、久美子だけはざっくり踏み込んで、それでいいのかと本音を聞いた。
それを、夏紀は「黄前ちゃんらしい」と言った。
2人は本音を言い合える先輩・後輩関係になりつつある。

 あすかファザコン論

シリーズ演出・山田尚子「あすかは「真面目な変態」というところから出発しましたね。そして、コミュニケーション障害を持っている子っていう」「すごく子供だったりもするんですよ」
監督・石原立也「お母さんとの対立も心理学的に分析すると興味深いとは思いますけど、あすかは典型的なファザコンですよね」(アニメスタイル007インタビューより)

あすかと母親の関係は、かなり厄介だ。
母は職員室で先生に怒鳴り散らし、娘のあすかの頬をビンタし、挙句パニックを起こして泣き出す。

「あの人ちょっとおかしいから。束縛が強くてすぐヒステリックになるし。多分それに嫌気がさして(父親は)出て行ったんだろうね」「母親はどこまで行っても母親だから。どうあがいてもその人から産まれたという事実は動かない。枷ね、一生外せない枷」とあすかは言う。

石原監督の言う、あすかの「ファザコン」は、「父親が好きでしかたない」というよりも、エディプスコンプレックス(女性はエレクトラコンプレックスと呼ばれることも)に近い。
父に対しての憧れが高まることで、母親に対しての強い反抗意識がわく。それが心理的抑圧になっている。

疎遠になってしまった父親に演奏を聞いてほしい、という彼女の純粋なエゴ。
どんどん膨れ上がり、聞いてもらうために何がなんでも北宇治高校を全国大会に行かせる、と突き進んだ。

今だったら「言ってくださいよ!頑張りましょう!」と部員みんなが言うだろう。そのくらい彼女は信頼されている。
ただ、彼女は周囲をほとんど信じていない。
今回だと靴ひもを結んでくれた友人・香織のシーンでのあすかの無表情な顔が印象的だ。
自分のことも信じていない。自虐が激しい。

山田尚子の言う「コミュニケーション障害」。
あすかは、語彙が多くしゃべりがうまい。いわゆるネットスラングの「コミュ障」ではない。
しかし自分の「本音」をきちんと言葉で伝えるのが極度に苦手。冗談やおどけで誤魔化してしまう。
あすかに今必要なのは、父親の姿だけじゃない。ガツンと心から「愛している」と誰かが言ってくれることだ。

10話は、原作既読者はきっと「黒沢ともよの演じる久美子が、すごいことになる!」と期待しているはず。
いやあすごいことになるでしょう。

エキレビ!で連載している「響け!ユーフォニアム2」のレビュー、アオシマ出張版です。
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