写真にはできない、絵だから伝わる美味しいってなんだ『食べ物漫画の舞台裏』
食べ物を題材にした自主出版誌を10年以上描き続けている作者のエッセイ作品が配信開始された。
食マンガで一番大事なことは「美味しそうに見えること」だ。
(不味い感覚を描く施川ユウキ「鬱ごはん」は除く)
これは、空想でのごまかしがきかない。
なにせ誰でも触れることができる上に、自分の体内に入れるものだ。
「こんなにも密着できるモチーフは他にあるだろうか?」と作者は述べる。
料理の写真を撮って、緻密に描く。
しかしそれでは「生々しさ」が先走り、グロテスクに見えることすらある。
「おいしそう」の大御所、食品サンプル。歯ごたえ舌触りの「雰囲気」を記号化した文化だ。
だがこれをデッサンしたところでおいしそうにはならない。無機質になるからだ。
何年も食べ物を描き続けてきた作者が考える、マンガにおける「おいしそう」表現論。
これを読んでから他の様々な食マンガを読むと、様々なマンガ家たちの、食べ物に対する姿勢が見えやすくなる。
作者の砂虫隼は、「もぐもぐ○」と題した同人エッセイシリーズを配信している。
いずれも長期取材を行い、数々の実験を繰り返し、レシピも多く載っているので、読み応えがある。
「もぐもぐ米」日本人誰もが食べる、米。身近すぎるからこそ興味深いネタが多い。
「もぐもぐ鶏」肉は色々あれど、鶏は一年でも食べる頻度かなり多いんじゃないですかね。やってみたくなるレシピも満載。
「もぐもぐ職」食べ物の種類ではなく、「食べものの職場」と「職場での食べもの」を描いた一冊。