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的確に空気を読んで、好感度高く話す方法『口下手な人は知らない話し方の極意』

『口下手な人は知らない話し方の極意』の著者の野村亮太さんは、認知科学の研究者。
落語の間、噺家の熟達化について研究している。

たとえば、こんな研究。

話を聞いている人のまばたきを調べるのだ。
人は、なにかに注意を向ける時には、まばたきが抑制される。
反対に注意を解放すると、素早いまばたきが立て続けに起こる。
つまり、いつまばたきしているかを調べることで、聞き手が、どのタイミングで話を注意深く聞いて、どこで注意を緩めたのかが判る。
それを、熟達した噺家さんと落語研究会の人で、比べてみると。

熟達した噺家さんの話のほうが、聞き手のまばたきのタイミングが一致したという結果が出た。

さらに、観客どうしの相互作用はあるのかという実験もやっている。
ひとりひとりの実験室で測定する場合に比べて、観客のまばたきの同期が30%から60%あがった。
時間がたつにつれて、どんどんタイミングが一致してくるのだ。

もうひとつ面白い結果が出ている。
聞き手がベテランの場合と、聞き手が初心者の場合で、同期の変化に違いが見られた。
ベテランの場合は、噺の後半で同期が高まるのだけど、初心者の場合だと、最初から同期が大きい。
初心者は、最初から周りの観客の反応を頼りに理解し、楽しんでいるのだ。

こういった実験や、噺家さんが話術について語っている知見から、どうすれば話術が磨けるのかを解説したのが、この本だ。

1:観客の様子を感じ取ること
2:見えをコントロールすること
3:効果的に話すこと。
と、3つの視点からアプローチ。
「効果的に話すこと」だけではなく「観客の様子を感じ取ること」「見えをコントロールすること」に軸足が置かれているのが特徴。

「へー」と思ったのは、噺家の前座修業が何の役に立っているのか。
前座として高座に上がって噺をする以外にも、たくさんやることがあって、前座修業のほとんどが、話すことに直接は関係していない。
出囃子の太鼓を叩くことや、演目を根多帳に書き込んだり、着物をたたんだり、お茶を淹れることだったり。
いろいろな仕事がある。
柳屋三三師が、そのような気働きが実は噺家の本質にかかわっているのだと今は思う、と語っている。
楽屋の雰囲気に気を配り、師匠の心持ちを推し量り、呼吸を合わせ、その場の空気を察して、振る舞いを変えていく。
それはまさしく噺家が高座の上で客の様子を感じ取り、それに即応して噺を作っていくことの原点になる。
話すことに直接関係ない前座修業なんて意味がないと思われがちだが、そうではないんだ、と。
「噺の呼吸」「場の空気」というものを掴み取るためには、どういうことが必要なのかを感じ取るためのヒントになる一冊です。