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電書でしか伝わらない美味『熊本大分のうまいもん教えて』

物理的な制約から解放された電子書籍。可能性が拡がった。
紙の本で、フルカラーのイラスト集を出すのはたいへんだった。
印刷費は高くなるし、色味の調整も困難を極める。
紙やインクによって発色の具合が変わってくるので、作家が思い描いた色味を出すには印刷的な技術が必要になる。
そう考えると、手軽に出したい場合、カラーイラスト集はとても電書向きだ。
というわけで、自分でもKDP(Kindleダイレクト・パブリッシング)で『思考ツールとしてのタロット』『あたらしいじゃんけんをつくろう』などの電子書籍を出している米光さんが、電書の凄さを感じさせる「これを読んでみてよ!」っていうモノを紹介するシリーズ「電書の可能性」。

第三弾は松野美穂『熊本大分のうまいもん教えて』だ。

松野美穂さんは、水彩イラスト・フードイラストを描いているイラストレーター。
虚人出版の『怪人二十面相』Kindle版のカバーイラストも手がけている。

松野美穂『熊本大分のうまいもん教えて』は、とてもシンプルな構成だ。
熊本大分のうまいもんのイラストが21ページ。
黄色い辛子レンコンのおいしそうなイラスト。
書き文字で、
“レンコンに辛子みそを詰めこみ衣をつけて油で揚げた熊本県の郷土料理。”
とちょっとした説明。
それだけ。
それだけなのに、なんておいしそうなんだ。

次のページ「熊本 赤牛」にいたってはイラストのみ。
何の説明もない。
ないけど、わかる。
ドンブリだな。
もちろんこのぐるっと敷き詰めるように並んでるのは赤牛。
この下に白飯だ。
真ん中のちょっと黄色みを帯びて白く丸いものは……生卵!
ガツっと箸を入れて、ぐしゃっとかきまぜてかき込む。
想像がひろがる。

説明はない。あっても最小限。
どのお店がオススメとか、どんな味なのか。そういった文字情報はない。
ないからこそイラストから伝わってくる味がある。

大分 鶏めし
熊本 いきなり団子
大分 やせうま
熊本 だご汁
熊本 晩白柚
大分 地獄蒸しプリン
などなど。

最後、奥付のページに本書の成り立ちが(これも最小限の文字数で)書かれてある。
“この本は、2016年4月14日以降に熊本県と大分県で相次いで発生した「熊本地震」を受けて、Twitterのハッシュタグ「#熊本大分のうまいもん教えて」に投稿した作品をまとめたものです。”

熊本大分でたらふく食べる旅行がしたくなる一冊。

こういったイラスト集が、手軽に買えて楽しめるのも電書の良さだろう。

『熊本大分のうまいもん教えて』松野美穂
【目次】なし
【構成】イラスト
【ページ数】21ページ
【書き出し】
辛子レンコン
【引用】
一文字ぐるぐる 一文字(小ネギ)をさっとゆでて根本を軸に葉をぐるぐるまきつける

・シリーズ「電書の可能性1」本当の本当に絵が描けない人のための入門書『マンガは描ける!絵が描けない人でも』
・シリーズ「電書の可能性2」いじめられっこVSゾンビ。乙一『カー・オブ・ザ・デッド』がやっぱり凄いッ