ノーベル賞受賞大隅良典は『ロウソクの科学』で科学を志した
大隅良典(東工大栄誉教授)が、2016/10/03、ノーベル医学生理学賞を受賞した。
彼が科学を志したきっかけは、兄からもらった自然科学の本。
とくに、以下の三冊に影響を受けたそうだ。
八杉龍一『生きものの歴史』
マイケル・ファラデー『ロウソクの科学』
三宅泰雄『空気の発見』
『ロウソクの科学』は、1861年末のクリスマス休暇にロンドンの王立研究所で催された連続6回の講演記録だ。
序文は、古風でストイックな翻訳調になっているが、ご安心。
本論は、とても優しい語り口だ。
“私はいま、公開の席でものをいっているのを心得てこの壇にたっておりますが、私にもっとも親しい人に話しかけるのと変わらない親しさで講演する気持ちをおさえずに、おしゃべりをすすめたいと思っております”。
6回の講演の内容は以下の通り。
第一講 一本のロウソク──その炎・原料・構造・運動・明るさ
第ニ講 一本のロウソク──その炎の明るさ・燃焼に必要な空気・水の生成
第三講 生成物──燃焼からの水・水の性質・化合物・水素
第四講 ロウソクのなかの水素──燃えて水になる・水のもう一つの成分・酸素
第五講 空気中に存在する酸素・大気の性質・その特性・ロウソクのそのほかに生成物・二酸化炭素・その特性
第六講 炭素すなわち木炭・石炭ガス・呼吸および呼吸とロウソクの燃焼との類似・結び
さまざまなロウソクと、その製法を紹介しながら、その本質に迫る。
つぎつぎと謎が生まれ、新しい観察と実験が導かれる。
“何か一つの結果を見たとき、ことにそれがこれまでとちがうものであったとき、皆さんは、「何が原因だろうか。何でそんなことがおこるのだろうか」と、疑問をもつことを、いつでもお忘れないことを希望いたします。こんなふうにして、皆さんは長いあいだに真理を発見していくことになります”。
そんな中、「科学する心」がどういうことか語られる。
クリスマスにこんな講演があったら素敵だなあとしみじみ思わせる一冊。
第六講で、日本からとりよせられたロウソクが登場するのも嬉しい。
原題は『The Chemical History of Candle』。