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『鈴木先生』武富健治最新作は漫画訳『雨月物語』ホラーなのに妙に笑えてしまう

『鈴木先生』『惨殺半島赤目村』などの作品で知られる武富健治先生の最新作は、江戸時代の古典『雨月物語』のコミカライズ。『雨月物語』は江戸時代後期のホラー短篇集です。

『雨月物語』は古文の教科書や問題などにも頻出の作品らしく、特に『夢応の鯉魚』という短編がよく出るようなので、レビューの最後にこの短編のあらすじを付けておきます。「あ、これ、高校時代に読んだやつだ!」という人や、「古文対策に内容を知っておきたい!」という受験生の方などにもオススメです。

しかし、本作は単に読者の知的満足感(古典読んで偉くなった感)を満足させるだけの作品ではありません。武富先生は非常に絵の力の強い(絵にクセのある)作家ということもあり、妙に面白いコマが突発的に飛び出してくるのです。

本作自体は原文の意を汲んだ非常に真面目なコミカライズですが、その作劇的なクオリティの高さとは別に、突然、吹き出すようなコマが出て来る。古典作品を読んでるはずなのに時折爆笑してしまう。

例えば『青頭巾』という話は、下野国の高僧が童子に執着(ホモ的な意味で)した末に、童子の死後、死姦し、さらにはカニバリズムに走って妖怪化するという凄まじい話ですが、この妖怪化した高僧が、庭に飛び出して奇声を上げつつ地面でバタバタした挙句に、疲れて眠りに落ちるだけの絵が妙に面白い。

なお、原文では「堂の方に駈りゆくかと見れば、庭をめぐりて躍りくるひ、遂に疲れふして起き来たらず」とあり、妙に面白い描写なのに、原文にはしっかり忠実だったりします。しっかり忠実なのに絵になるとシュールギャグみたいになってる。ていうか、なんか漫画太郎っぽい。

そもそも『雨月物語』自体の筋運びが面白く、知的満足感(偉くなった感)以上のエンタメ性がある上に、武富先生の絵的な面での不思議なおかしさが加わって、妙に魅力的な一冊となっています。かなり特殊で、クセがあり、しかし文学的には極めて真摯に作られた、オススメの一作です。

『夢応の鯉魚』あらすじ

魚を描くのを得意とする高僧が、死後、霊体となって全裸で湖で泳ぎながら、「魚になりてえなあ」と思っていると、生前の功徳によって鯉に変身した。調子に乗って気持ち良くスイスイ泳いでいた高僧だったが、腹が減り、釣り餌に誘惑されてしまう。「要するに、釣られないように上手く餌だけ取れば良いのでは?」と思ってトライするも、見事に釣り上げられて調理されてしまい、「ぐえーっ、助けて!」と命乞いした。