2016.09.01
「何ッお乳!! それだ!!」ストリッパーが焼け野原と化した東京を救う『あれよ星屑』
映画を愛する優しい青年だったが、敗戦から酒に溺れるようになった「班長」、
剛腕で女好き、人懐こくて誰とでも友達になる「カドマツ」。
山田参助「あれよ星屑」は、焼け野原になった東京で、元軍人ふたりの絆を描いた漫画だ。
4巻に続き5巻は、父と縁を切って塞ぎ込む班長が、
天性の明るさを持つ「カドマツ」、海外デビューの夢を持つストリッパー「カンナ」のふたりによって救われる一連のエピソード。
空襲を生き延びた父親と再会した班長。
しかし父は、再会したことにも、兄が戦死したことにも動じず、
「貴様らがもっとしっかりせんから」と言い放った。
親子の縁を切った班長に、なんとか元気を出してもらいたいカドマツは、本物のハダカが出るストリップ劇場の噂を聞きつける。
「肉色の襦袢着て出てくるやつだろ?」
「違う違う!踊り子のお乳が出んだよ!」
「何ッお乳!! それだ!!」
「お乳」のワードが出た瞬間、当初の目的を忘れて自分優先になる。カドマツの清々しいほどのデリカシーの無さが、班長を救うことになる。
連れ添って見に行ったストリップで、芸術を愛する踊り子、泉カンナと知り合う。
芸術を愛し、男を抱き、あんみつを食べながら海外デビューの夢を語る。
ほかになく明るいカンナに、ストリップの合間の芝居を書いてと頼まれたことで、班長に変化が訪れる。
班長はかつて映画青年だった。
兄と「透明人間」を観て、ブロマイドを買った思い出がある。
父は「くだらんもの」の映画雑誌を燃やして、兄弟を軍隊に入れた。
時代によって映画関係の職に就くのをあきらめた班長に、もう一度創作の仕事が舞い込んできた。
いやだった人殺しの仕事じゃない。
夢だった銀幕とストリップ劇場で多少の違いはあるけど、どちらも、現実を忘れて人に夢を与える仕事だ。
創作の苦労と喜びを経験した班長は、過去を断ち切り、生まれ変わったようにひたすらカンナと愛し合う。
「カンナみたいな日本人がこれから増えていくんだろうなァ…」
「そうよ きっとこれから日本もアメリカみたいに自由で素敵な国になるわ」
本作で山田参助を知った読者のために、ゲイ向け雑誌「さぶ」に連載された作品も復刊している。kindle unlimited対象だ。