ジブリの本質は掃除だった。『コクリコ坂から』制作で川上量生の考えたこと
「なにしにきた。ここにはなにもないぞ」
アニメーション監督・宮崎駿は、川上量生(かわかみのぶお)をにらんでこう言った。
株式会社KADOKAWA・DWANGO代表取締役社長。そんな立派な肩書きを持つ川上は、それからスタジオジブリで働き始める。
ジブリでの肩書きは“プロデューサー見習い”。無給だ。
まるで『千と千尋の神隠し』の湯婆婆と千尋のやりとりのようではないか。
宮崎駿が「なにもない」と言ったスタジオジブリで川上が見つけた秘密。それが新書『コンテンツの秘密 ぼくがジブリで考えたこと』に詰め込まれている。
2016年8月12日21:00~「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ)で放送される『コクリコ坂から』。川上が、ジブリで初めて関わった長編映画だ。
ある日、プロデューサー・鈴木敏夫からスタッフに「『コクリコ坂から』のキャッチフレーズを考える」というお題が出される。
なかなか良い案が出ない中、東宝の宣伝担当者が発言した。
「おそうじ三部作、ついに完結! 今度のおそうじは一番すごい!! なんてのはどうでしょうか?」
『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『コクリコ坂から』など、ジブリの作品では掃除のシーンがよく出てくると言うのだ。
みんなが大笑いし、鈴木も「宮さんは、困ったらすぐにそうじをさせんだよ」と言う。
こんな他愛ないやりとりからも、川上はコンテンツの本質を探っていく。
ジブリ作品から「おそうじをすること」という要素を取り出したことを、彼はこうまとめた。
現実の情報を圧縮して表現する。それをあらためて現実と比較して、だいたいあっているかどうかを確認する。
人間にとってありふれたこの思考プロセスを使い、そのイメージを再現すること。それがアウトプットされた「コンテンツ」なのだ。
では、なぜそんなアウトプットが必要なのか?
それを、本書を読みながら川上と一緒に探っていく。まるで宮崎駿や鈴木敏夫の頭の中を探検しているようだ。
新書『ジブリの仲間たち』で、鈴木敏夫が弟子の川上についてこう語っている。
彼は成功してもお金の亡者にならず、実験精神に富んでいて、いつでもおもしろいことをやりたいと考えている。
2016年8月22日の「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK総合)の特集は、川上量生。
予告ムービーの背景には、映画『風立ちぬ』のポスターが見える。
川上が、ジブリやKADOKAWA・DWANGOでこれからどんな面白いことをしようとしているのか。
理屈っぽいのにワクワクする。