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2016.08.08

TBS「クレイジージャーニー」でむっとしていたプロフリーダイバーの本音を読む

危険な冒険者を特集する「クレイジージャーニー」8月4日放送分に、日本で初めてプロ・フリーダイバーを名乗った男、篠宮龍三が出演した。

ウェットスーツと足ヒレだけで水深100メートルに挑む「フリーダイビング」
到底食っていけない超マイナースポーツに魅せられ、篠宮は会社を辞めた。
現在でも、海外遠征のために生活を切り詰め、執筆や講演を収入源にしている。

フリーダイビングの練習は1日1回。
沖縄の海で、2キロほどの地点まで船を出す。
それ以前は、サラリーマン時代の貯金を切り崩しながら、市民プールでこっそり潜水していたこともあった。

潮の満ち引きが重要なので、太陽でなく月の満ち欠けとともに行動する。
海面が落ち着いて気持ちも整った、わずかな時間を狙って潜る。
スポーツというよりも、儀式のようだ。
実際に、信仰心が強い海外のダイバーは、潜る直前に祈りで恐怖をうち消す。

で、その大切な1日1回の潜水前に、
「装備にこだわりは?」
「両腕の時計はそれぞれ違うもの?」
と、「クレイジージャーニー」スタッフが質問を繰り返した。

「潜る前にこんな聞いてくるディレクターはじめてですよ」
篠宮はむっとしているように見えた。
心中はどうか。

『素潜り世界一 人体の限界に挑む』を読む限り、、練習前の質問攻めは論外だが、篠宮はテレビがフリーダイビングを取り上げることを熱望している。
「どんな番組ならフリーダイビングの魅力が伝わるか」も具体的に考えている。

これに、番組がひとつの回答を出した形になっているのが面白い。
「クレイジージャーニー」は最初に、
「篠宮は何分息を止めることができるか」を見せた。

一番シンプルに凄さがわかることをやらせて、「マジで!?」と視聴者を引き付けてから、競技の話題につなげたのだ。

番組では悟りきったような風貌だったが、作中には金で苦労した経験が繰り返し書かれる。
マイナースポーツ同士だったトライアスロンに嫉妬までしている。
たしかにフリーダイビングは気軽にできない。観戦にも向いてない。

だけど、身体ひとつで潜る海は、他では経験できない感覚をもたらす。
沈むほど余計な感情が消えて「無」になっていく。
死に近づいていく。
素早くターンして、今度は逆に明るい世界に浮上していく。
だんだん光が差す。
仲間たちが見えてくる。

「ダイビングを終えたあとの最初のひと息は、生まれて初めてする呼吸のようだ」

毎日、死と誕生を疑似体験できるスポーツ。
こんな世界があるんだと、少しでも多くの人に知ってほしい。篠宮は熱望している。