• トップ
  • 特集
  • 今読むべき筒井康隆作品絶対ベストセレクション

今読むべき筒井康隆作品絶対ベストセレクション

NHKラジオ第1の朝の番組「すっぴん」内の「本、ときどきマンガ」コーナーで本の紹介を担当していて、先日7月14日(木)に「米光一成が独断と偏見で選ぶ<筒井康隆の奇天烈小説>」というタイトルで話した。が、時間の関係上、3冊しか紹介できず。いやいやせめて10作は選びたいってんで、ここ「アオシマ書店」で「独断と偏見で選ぶ今読むべき筒井康隆作品10作」をやるよーGO!

『大いなる助走』 

7月19日に芥川賞直木賞が選ばれる今、読みたいのが『大いなる助走』。
文壇内幕暴露小説だ。
直廾賞の選考会の様子はメチャクチャで、賄賂の額で受賞を決めようとしたり、読む時間がないからあらすじを教えろと編集者に言ったり、SFだから落とす、だったり、女優を紹介するから味方につけと言ったり、寝落ちする者がいたり。
しかも、筒井さん直木賞候補になりながら落とされたときの実際の選考委員がモデルだってわかる描写。
落選した作者が、選考委員を次々と射殺しにいくのがクライマックス。

「無人警察」(『にぎやかな未来』収録) 

筒井康隆断筆解除20周年の今、読みたいのが「無人警察」。断筆騒動の直接のきっかけになった作品だ。『にぎやかな未来』新装版が出た。
「日本てんかん協会から抗議を受けた筒井康隆断筆宣言。解除から20年『にぎやかな未来』新装版が凄い」に詳しい。

「関節話法」(『宇宙衞生博覽會』収録)

英国のEU離脱など国家間のコミュニケーション不全が問題になる今、読みたいのが「関節話法」。関節を鳴らして対話する異星人とのコミュニケーションを描いた作品。外交官として赴任した男が悪戦苦闘しながら全身の関節を鳴らし壮絶かつ抱腹絶倒な対話を描く。猛毒大暴走狂気作品が集結した短編集なので、『宇宙衞生博覽會』ぜひ。

『朝のガスパール』 

インターネットで悪口を書いてすっきりする馬鹿がはびこる今、読みたいのが『朝のガスパール』。
朝日新聞朝刊に連載された作品。
連載十五回目に、突然、作家と編集者が登場して、読者の投稿を紹介しはじめる。
「朝一番に読むのだからさわやかな小説にしろ」「SFだから新聞の購読をやめる」
しょうがねぇなってんで、パーティーシーンがはじまると、今度は「SFにしてくれ」と投書がくる。
「小説が突然中断して読者投書の感想会になって不愉快だ」「読者参加で小説を書くのは手抜きじゃないのかな」「この小説の作者は気が違っている」
次々と読者からの意見が、実名で紹介され、それに反論する小説家。
登場人物が増えてわけが分からなくなったという投書が増えたら、小説の中で大爆発を起こして、ほとんどみんな殺してしまう。
さらに、作家と読者が大喧嘩をはじめ、小説は混乱の中、ものすごいエンディングを迎える!
第13回日本SF大賞受賞作。

『時をかける少女』 

日本テレビで土曜よる9時にドラマ「時をかける少女」放映中の今、読みたいのが『時をかける少女』。9回も映像化された作品だ。中学3年生の少女芳山和子は、理科実験室でラベンダーの香りを嗅いで意識を失った後、テレポーテーションとタイム・リープ能力を身につけてしまう。超能力とせつない恋を描いたジュブナイルSF。

「シナリオ・時をかける少女」(『串刺し教授』収録) 

『時をかける少女』を読んだ今、読みたいのが「シナリオ・時をかける少女」。9回も映像化されたそのどれかのシナリオではなく、筒井康隆本人によるパロディ作品。“「ね、これ、ちょっとやり過ぎじゃないの」「でもさ、これ、パロディだろ。だから、いいんじゃないかなあ」「だけどさ、いくらパロディでもさ、ちょっとやっぱり、原典の品位というものがあって、その値打ちが」”

『家族八景』 

ネットで勝手に人の心を読んで喧嘩ふっかけてくる馬鹿が多い今、読みたいのが『家族八景』。テレパス美少女、お手伝いさんの火田七瀬が、家庭に入って、ひとの心を読んでしまって巻き起こる事件を描いた連作短編。心象風景描写に心がえぐり取られる。

『七瀬ふたたび』 

『家族八景』を読んだ今、続けて当然読みたいのが『七瀬ふたたび』。七瀬シリーズ第二部。超能力集団と暗黒組織との壮絶バトル長編に展開して驚愕する。めっちゃおもしろい。

『エディプスの恋人』 

『七瀬ふたたび』を読んだ今、さらに続けて当然読みたいのが『エディプスの恋人』。七瀬シリーズ三部作完結編。『七瀬ふたたび』の大バトルの後に何が続くのか? と思いきやこんな展開になるとは! 『魔法少女まどか☆マギカ』ファンは七瀬三部作は必読だよ☆

『残像に口紅を』 

言論の自由の問題についてしっかりと考えなければいけない今、読んでほしいのが『残像に口紅を』。
1章のタイトルが、「世界から「あ」を引けば」。
世界から1章ごとに1文字ずつ消えていく小説。
しかも、ことばが失われた時にはそのことばが示していたものが世界から消える。
「び」がなくなるとビールが消え、「む」がなくなると「村田さん」は消える。
異様な状況と、どんどん言葉がなくなって、文章そのものがドタバタになってくる面白さ。
第三部になると、もう残ってる音が、21音。
その21音だけで小説が描かれていく。さらに、どんどんことばが消えていって、すべての言葉が世界から消えるまで小説が続く。

『モナドの領域』 

2016年の今、読みたいのが『モナドの領域』。筒井康隆2016年の最新作。神様が登場して人類と世界の秘密を語り始める。帯には「わが最高傑作にして、おそらくは最後の長篇」!

『本の森の狩人』 

帯に「わが最高傑作にして、おそらくは最後の長篇」と書いてあり、ええええまだまだ新しい長編作品を読みたいと思う今、読みたいのが『本の森の狩人』。本書の中で『人がみな狼だった時』という存在しない小説を書評し、読者書店を混乱させたので、筒井さん自分で書くと宣言した。読みたい読みたい読みたい。めちゃくちゃおもしろそうなのだ。『本の森の狩人』は、読売新聞に連載された書評集。ひとつひとつの書評そのものがエンタテインメントでおもしろい。筒井作品に登場するキャラクターが次々と登場して書評するのも凄いよ。

「薬菜飯店」(『薬菜飯店』収録) 


健康健康健康と健康強迫症のような世の中になっちゃった今、読みたいのが「薬菜飯店」。究極の薬膳料理小説を読んで、出すもの出して浄化されるが吉。

『玄笑地帯』 

「フリースタイルダンジョン」「パワポカラオケ」など即興ブームの今、“そうとも。目茶苦茶な小説を心がけるなら当然エッセイも、というわけでこのエッセイ、テーマもなく筋も通らず結論もなしというのを毎回試み”た『筒井康隆全集』の「月報」に書かれたエッセー集をぜひ。

「読者罵倒」(『原始人』収録)

フリースタイルラップのブームの今、読みたいのが「読者罵倒」。“こら。読みされせこの脳なしの能なしの悩なしめ。手前だ。ふらふらと視線さまよわせ気軽、心安らか、自らは何ひとつ傷つかず読める章セうがないかときょとつく手前のことだ。”とはじまる読者ディスの短編。

『旅のラゴス』 

夏休み、ゆったりとした気持ちになりたい今、読みたいのが『旅のラゴス』。
ロングセラーになって大人気の作品だ。高度な文明を失った代償として人びとが超能力を獲得しだした世界で旅をつづけるラゴスの物語。壮大で叙情的、異世界をたっぷり旅した気持ちになれる。

「ラッパを吹く弟」(『にぎやかな未来』収録) 


「コップのフチ子」ブームの今、読みたい短編が「ラッパを吹く弟」。弟に叩かれて、口に入れていたバーベキューの銀串でホホにぽっかり穴が空いてしまった姉を描いた短編。ラストのフチ子さん的シーンが印象に残る。

『文学部唯野教授』 

大学が抱える問題が根深くなっている今、読みたいのが『文学部唯野教授』。
大学内部権力闘争の狂気の沙汰と、饒舌キャラクター唯野教授の文学講義が絡まり合って進む大ヒット作。

「魚藍観音記」(『魚籃観音記』収録)

エロがダダ漏れで節操がなくなってきている今、読みたいのが「魚藍観音記」。
童貞歴一千年の孫悟空と観音様の禁断の愛を描いた短編「魚藍観音記」。冒頭に“頁を繙くのに用いぬ方の手で静かに手淫行わば、結末間近にして大いなる歓喜法悦に導かれること間違いなし。”との作者の言葉あり、気宇壮大なエロ小説。

「毟りあい」(『メタモルフォセス群島』収録) 

憎しみの連鎖が問題になっている今、読みたいのが「毟りあい」。
脱獄囚がサラリーマンのおれの妻と子を人質にとり自宅に立て籠もる。ので、おれは脱獄囚の妻と子を人質にして交渉し合うことになり、壮絶な毟りあいがはじまる。野田秀樹「THE BEE」原作。

「お紺昇天」(『東海道戦争』収録) 

AI搭載の自動運転車が現実のものになろうとしている今、読みたいのが「お紺昇天」。
スクラップ場に向かうAI搭載の自動運転車との切ない別れを描いたロマンティックな短編だ。

『霊長類、南へ』 

大統領候補者のトランプが「戦争になれば、それはひどいことさ、そうだろ? だが、そうなったらそれはそれだ」(→恐怖!ドナルド・トランプの暴言「日本は北朝鮮を早々に撃滅するだろうさ」)なんてことを言ってる今、読みたいのが『霊長類、南へ』。
最終戦争がはじまり、水爆の落ちなかった南へ人類が大逃亡するブラックなドタバタ爆笑小説。

『俗物図鑑』 

評論家気取りの俗物がのさばっている今、読みたいのが『俗物図鑑』。
自殺評論家、性病評論家、痰評論家、出歯亀評論家、次々と集結する評論家プロダクション「梁山泊」と世間の良識との大戦争を描いた長編小説。

おっと10作品セレクションってはじめたのに、もう23作品だ。『幻想の未来』『ダンシング・ヴァニティ』『愛のひだりがわ』『虚人たち』『虚構船団』ああまだまだ面白い作品はいくらでもあるのだ。だが、どれもこれも紹介していたら選んだ意味がなくなってしまう。いや、もう、全部読むがいいよ。電子書籍で全部読めるようにしてほしいよ。まとめ書いさせてよ。Twitter#筒井康隆でわいわいツイートしてよ。