切ない恋愛+濃いめの官能シーンで大人気ティーンズラブ小説の名作『蜜恋絵巻』
集英社シフォン文庫『蜜恋絵巻〜快感たいむすりっぷ〜』(作・むつみ花藍/イラスト・ゆえこ)は、ティーンズラブ小説(TL小説)である。TL小説とは、女性向け恋愛小説にしっかりめの官能シーンが登場するもの。
現代に生きる男性・朝陽と平安時代からタイムスリップしてきたお姫さまの恋。文化の違いすぎる2人の関係は、ゆっくりと進む。ヒロイン・千歳の生い立ちにその理由があった。
「幼い頃から妖のようだと忌み嫌われ」るほどの容姿を持つ千歳。「一日中几帳の裏に隠れ、罪人のように息を潜めていた」が、それは平安時代における美的感覚の話である。朝陽にとって、千歳は「すごく美人」。褒められることに驚くも、嬉しいと千歳は受け止める。
十二単からワンピースに着替え、シュークリームのおいしさを知り、スマホに驚く。
朝陽の元で居候生活を送ることになった千歳。いつぶりに笑っただろうと考えるぐらいに、楽しい日々を過ごす。「一緒にときを過ごしてくれる朝陽がいるおかげだ」と思うのだが、まだ感謝の気持ちといったところか。
やがて、遊園地デートを楽しむほど千歳は現代に慣れる。しかし、外へ連れ出してくれるのはいつも朝陽の方。彼の友人と出会っても下を向いてしまい、受け身がちなのだが――
「わかりたいと思ったんです。この世界のことも、あなたのことも」
「それに、このままの私ではだめだと思うんです。いつまでも逃げたり隠れたりしてばかりでは」
朝陽に優しくされるだけではダメ。彼に楽しい時間を過ごしてもらいたいと、友人達を家へ招こうと提案する。千歳から初めてこうしたいと意志が生まれるシーンだ。
その背景に、いつか元の世界に戻る時がくる。ならば、思い出を作りたいという気持ちが隠されていた。うう、せつない。
そして、朝陽と離れたくないと願う出来事が起き、2人はこれからを考え始める。
千歳のコンプレックスが解消し、朝陽に惹かれていく様子が丁寧だ。焦れったさも、初めて触れ合うシーンによく映えてくる。手を繋ぐことも恥じらうような女性がタイプの朝陽。ライトなSッ気はいいぞ。