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「これは負け馬投票券だ!」直木賞作家浅田次郎が競馬で食ってた時代の仰天話セール中

「鉄道員」より「蒼穹の昴」より前。
未来の大御所作家だった浅田次郎は、競馬でメシを食っていた。
といっても、豪快な生活じゃない。
小説家になる夢をかなえるため、少しでも長く原稿用紙に向かいたい。
そのために最短時間で生活費を稼ぎたかった。

『勝負の極意』は競馬指南書としても読めるが、それより昔の競馬場の、猥雑な雰囲気がいい。

「勝つ」のが目的ではなく、「競馬で生活する」ために、普段から金銭の管理に気を使い、せこく勝ち逃げを繰り返す。
浅田次郎はもともと、ギャンブルや裏社会を面白おかしく書く人だ。

初めての単行本は、借金の取り立てをしていたころを書いたエッセイ『殺られてたまるか!』だし、
憧れだった世界のカジノ紀行は、人気作家になってから『カッシーノ』にまとめた。

「勝馬投票券を捨てないでください」
ガードマンに向かって怒鳴り返した。
「バカヤロー、勝馬投票券じゃねえ、負け馬投票券だ」
周囲のオヤジたちがドッと笑った。(勝負の極意』より)

当時の馬券は今よりずっと厚く、輪ゴムで束ねて本当に「馬券を握りしめて」レースを見守る。
レースが終わると、負けたショックの上に、頭上からハズレ馬券の束が降ってきて心身ともにケガをすることもあった。

そんな生活を続けて、帰ったら昔からのスタイルで文机と原稿用紙に向かう。

数えきれないほど新人賞に落ち続けて20年。
デビューして、「蒼穹の昴」が売れ、家を改築しようと家具を運び出していたら、奥さんが泣いていた。

畳の上で1日3時間は座って小説を書いてきた。
すると畳が尻の形に窪んでくる。少し横にずれて、また書きだす。
そうしているうちにできた尻跡の列をなでながら、普段は気丈な奥さんがずっと泣いていた。