日本領サハリンで展開する狂気と友情の物語。地本草子『子どもたちは狼のように吠える1』
6/30、地本草子の長編小説『子どもたちは狼のように吠える1』の電子配信が開始した。
地本草子はダッシュエックス文庫(集英社)、富士見L文庫(KADOKAWA)などのレーベルで作品を発表をしているが、ハヤカワ文庫JA(早川書房)での発表は今回が初となる。
『子どもたちは狼のように吠える1』は、「犬(ライカ)」と呼ばれた少年・セナの物語。
物語の舞台であるサハリン島には、二種類の人々が暮らしている。日本人(ヤポンスキー)と、外国人労働者(ウォールピープル)だ。日本人はいわゆる支配者階級で、外国人労働者を使役し、専用の居住区で優雅な生活を送っている。一方、外国人労働者には人権さえあるのか疑わしく、街の治安も劣悪だ。
このようにはっきりと描かれた「明」と「暗」が、物語のなかで様々なドラマを引き起こしていく。
主人公のセナは日本人の少年。
他の日本人と同じく幸福な日々を過ごしていたが、ある日、正体不明の男たちによって両親を殺され、自身はジャパニーズマフィアに売り飛ばされてしまう。さらに「学校」という名の戦闘訓練施設に入れられ、容赦のない「暴力」と、ねじ曲がった「性愛」の対象にされる。そんな絶望の縁で、セナは「狼(ヴォルク)」と呼ばれる少年・ニカと出会った。
金持ちで温室育ちの日本人セナと、単身でロシアから移民してきたマフィアのニカ。
まるでサハリンの明暗を象徴するかのような、対照的なふたり。
本来なら相容れないふたりだったが、「脱走」という共通の目標のために「兄弟」の誓いをたてることになる。
やがてふたりは命からがら脱走を果たすのだが、ストーリーはここからが本番だ。
「学校」から逃げ出したセナの首には、多額の賞金がかけられた。しかし逃げようにも、どういうわけか、セナの日本人としての記録は抹消され、居住区に入ることすらできない。かといって外国人労働者の街に行っても、日本人というだけで忌み嫌われる。
セナが頼れる人間は誰もいなかった。いや、ひとりだけいた。それは、セナと兄弟分になることを誓った「狼」。すなわち、ニカだった。
ニカは兄弟を決して裏切らない。セナに危害を加えようとするやつは、マフィアだろうが警官だろうが、撃ち殺し、粉砕し、魚の餌にする。そしてその残忍なやり口に戸惑うセナに対し、”ぞっとするような”笑顔で微笑みかけ、こう言うのだ ーー「よう、兄弟」。
友情と憎悪。性と暴力。無知と狂気。表裏一体のそれらが断続的に描かれ、サハリンという島を形づくっていく。もとよりニカたち移民は、「居場所」をもとめてこの島に来た。ふたりの少年「狼と犬」は、この混沌とした島のなかで、どこに自分たちの居場所を見つけていくのか。続刊に期待したい。
著者メッセージ
近未来の日本を舞台としたノワール小説――それが本作『子どもたちは狼のように吠える』のスタート地点でした。
そして一年以上に及ぶ打ち合わせで、企画があっちにいったりこっちにいったりしてドツボに嵌っていたところ「地本さんの好きなの書いたらいいよ!」という担当さんの一言に調子に乗って散々暴走した結果、日本領サハリンを舞台に、まったく立場の違う二人の少年が、大人たちの振りかざす暴力に運命を翻弄される、というこの本の骨子が組み上がったわけです。
ちなみに前述の通り本編は、ほぼ100%作者の趣味嗜好によって構成されているので要注意です(傷ついた美少年って素晴らしいですよね!)。
最後に八月発売予定の二巻の話しを少しさせてください。
二巻は、一巻ラストの四年後から始まります。どこまでも身勝手で汚い大人たちと、生きるために犯罪に手を染めた子どもたちの激しい戦いのなかで、義兄弟の契りを結んだセナとニカの未来は、いったいどのような結末に辿り着くのか……。
発売まで、今しばらくお待ちください。
地本草子