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高校球児は修学旅行に行けない(でも行きたい)江川卓の場合

江川卓も著作にかかわった『たかが江川されど江川』。ドラフトのときのこと、父親のこと、成金趣味のことなど様々なエピソードが描かれている。その中でも印象的だったのが、江川の高校時代の話。

甲子園を目指して練習に明け暮れていた僕ら野球部員は、修学旅行にも参加できなかったのである。(「雨に散る江川」の感激より引用)

高校時代に強豪の野球部に入っていると、修学旅行に行けないことがある。2013年10月19日の「ズームイン!! サタデー」で巨人軍の村田修一選手、元監督・原辰徳、アナウンサーの上重聡(PL学園で松坂と甲子園で対決した経験あり)が修学旅行に行けなかったと話していた。

彼らと同じく、野球漬けで修学旅行に行けなかった怪物・江川。3年夏の大会で甲子園に出場する。8月16日に行われた対銚子商業戦。スコアレスのまま延長戦に突入。8回頃から降り出した雨は江川の制球を狂わせ、12回裏一死満塁フルカウントのピンチを迎えてしまう。マウンドに駆け寄ってきたナインに江川はこう問いかけたらしい。
「真っ直ぐを力一杯投げたいんだ」
一匹狼のような性格で個性派集団だったというナインからは思いがけない言葉が返ってきた。
「お前の好きなボールを投げろよ。お前がいたからこそ、俺たちもここまで来れたんじゃないか」
この言葉を聞いて初めてチームが一つにまとまったと江川は語る。
投げた球はストライクゾーンを高めに外れ、サヨナラ押し出し。しかし、悔しさはなく、すがすがしい気持ちで甲子園を去っていった。

試合後、監督から思いがけない提案があった。せっかく関西まで来たんだから、京都・奈良の観光旅行をしてから帰ろうじゃないかと。
甲子園でのあの最後の一球の前に心を通じ合えた僕たちは、終始和気あいあいと旅行を楽み、江川はこれを修学旅行と表現していた。
このやりとりを読んだとき、2014年8月20日に放送された熱闘甲子園の「なつあと」を思い出した。3回戦、八戸光星学院に延長の末、5対1で敗れた星稜高校の部員たちに監督がかけた言葉がある。

「甲子園はどうやった? 最高やったな。ほんといい夏やったね。まだお昼1時ですので、きみたちには2つの選択肢を与えます。京セラドームに行って阪神戦を見るか、海遊館に行って一緒に泳ぐか」

部員たちは京セラドームで阪神対中日戦を見たらしい。

甲子園で敗れた球児たちのその後がテレビで映されるのはほんの一部だ。どんな思いで眠りにつき、朝を迎え、帰っていくのか、甲子園に出場したことのない自分には想像がつかない。
京セラドームで阪神を応援していた星稜高校野球部、京都・奈良を旅行した江川。涙で終わることの多い高校野球。こんな終わり方もあるんだな、と思った。