室伏広治、事実上の引退表明の衝撃『超える力』
今月24日、男子ハンマー投の室伏広治が引退を表明した。リオデジャネイロオリンピックの出場を掛けた日本選手権で上位8名に食い込むことができなかった。
室伏は2004年のアテネオリンピック金メダリスト。投てきの種目で金メダルを獲得したのはアジア史上初である。
同じくハンマー投で「アジアの鉄人」と呼ばれた重信を父に持つ室伏。幼少期から、父の手作りのハンマーで遊び、父の仕事場でもあるハンマー投のグラウンドを遊び場として過ごしてきたという。
そんな室伏のハンマー人生が描かれた「大人のアスリート本」、『超える力』。「試合当日の戦略」や「試合当日に向けたピーキング」、ボルトが2011年世界陸上で失格した意味など、自分を超えるための考え方、その意味について語られている一冊だ。
第1章「成熟」世界陸上テグ2011
第2章「オリンピック」シドニー、アテネ、北京の軌跡
第3章「運命」ドーピングとの闘い
第4章「継承・発展」父・重信を超えるために
第5章「流儀」広治スタイル
第6章「証言」室伏広治を語る
の全6章構成。
現役アスリートや陸上競技、ハンマー投を志す後輩のみならず、ビジネスマンや教育者、子育て中の方にも何かを感じていただけるかもしれないと本人もプロローグで語っている。
スポーツは結果がすべてという意見もあるが、私は必ずしもそうだとは思っていない。むしろプロセスをどのように作り上げるかで結果がついてくるのだと考える。
そのときどきの最善を尽くした結果が得られ、自らが納得のできる投てきができたのなら、それでいいのだと私は考えている。(第1章「成熟」世界陸上テグ2011より引用)
最善を尽くしたプロセスがあるなら、結果はこれからの糧になったり、満足のいくものになったりする、ということか。
スポーツでなくとも、他人の成果、成功失敗は気になってしまう。自分と同じ道にいる人間ならば、どうしても優劣を気にしてしまう。しかし、勝負の場に立つまで最善を尽くしてきたのかと言われると、自信がない。
「超えた」と思える瞬間が人間を作る——。
表紙の帯に書かれたフレーズ。超える、の前にはおそらく「自分を」という言葉が省略されていると考えて間違いない