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大ヒット「貞子vs伽椰子」の小説版を読んで驚いた、ストーリーが違うじゃないか

白石晃士監督による映画作品「貞子vs伽椰子」絶賛上映中! あまりに面白かったので小説版の本作も購入してみました。著者は「未完少女ラヴクラフト」などの黒史郎さん。白石監督も監督・原案としてクレジットされています(が、どの程度小説に関わっているのかは分からない)。


まず初めに言っておくと、本作は映画版『貞子vs伽椰子』とはストーリーが異なります。ゆえに映画版を見た人でも二度楽しめます。

映画版は、「呪いのビデオ(貞子)」「呪いの家(伽椰子)」それぞれの呪いにかかった二人の少女を救うために、凄腕霊媒師が貞子と伽椰子をぶつけて呪いの対消滅を狙うストーリー。一方、本作ではビデオに呪われるのは劇団員の女優とオカルト記事を得意とするフリーライターとなっています。その二人が自身にかけられた貞子の呪いを解くために、呪いの対消滅を狙い、呪いの家へと向かう、という話ですが……。

白石監督がどの程度この小説に関わっているのか分からないのですが、こちらからもかなりの白石イズムを感じます。まず、女優とフリーライターですが、彼らは健気にたった二人で呪いの家に向かったりしません! 30人くらいのスタッフをゾロゾロ引き連れて行きます! 

これはフリーライターの発案で、「もう呪われちゃったものは仕方ない」「せっかくだから呪いが解けるか、呪われて死ぬまでをドキュメンタリーにしようぜ」というもので、業界では顔の広い彼が、命知らずのオカルト大好きバカどもを集めて機材フル装備で乗り込むのです。このキャラクターの妙な芯の強さ! なんだか白石イズムを感じませんか!?

もちろん呪いの家の主、伽椰子の方も遠慮しません。『呪怨』シリーズをご覧の方はご存じの通り、伽椰子は「普通の悪霊ならちょっと身を引く」シーンでもグイッと前に乗り出すんですね。一例を挙げるとこんな感じです。

「警備員さん、助けて! 女子トイレに変な女が」
「分かりました。様子を見てきましょう」

普通のホラーなら、警備員がすぐに帰ってきて、「何もいませんでしたよ。気のせいでは?」と相手にされず、「やっぱり気のせいだったのかな」と思ってトボトボ帰ってる最中に再び襲われます。

でも『呪怨』だと、様子を見に行った警備員がそのまま襲われて死ぬ。そうです。伽椰子は「対象以外の人間を巻き込むこと」「他の人間に存在を認識されること」を全然気にかけないんです。

今回もしかり。「ビデオを回してる間は幽霊は派手に動かない」といった殊勝さは伽椰子には全くなく、30人もいてドタバタしてて、ビデオもバリバリ回してネット中継までしてるのに、伽椰子側はガンガン動きまわってバリバリ殺していきます。オカルト大好きバカたちがあっという間にどんどん数が減っていく。

そして、映画版よりも貞子と伽椰子のプロレス描写に力が入っています。映画版は貞子と伽椰子の直接対決シーンがごく短いのですが、小説ではかなり長い。数時間にわたって殴り合います。映画版はスピード感と緊張感を優先して短くしたのだと思いますが、小説だと章を跨いだりすることで緊張感を残しつつ時間経過を表現しています。「貞子と伽椰子にはもっとガッツリ戦って欲しい!」という方には小説版をオススメします。

あと終盤はノリが全体的にバカです。呪いの家で呪いのビデオを再生して、現れた俊雄(伽椰子の息子の幽霊)がビデオを見ちゃうシーンでは、フリーライターたちがその光景をモニターで確認しながら、

「俊雄くん、これ、がっつり呪われてるよな。どうなるかな、二日後に死ぬのかな。逆に生き返ったりしてな」

 などとのんきなコメントをします。「俊雄が呪われる」って響き、すごいですよね。

 貞子と伽椰子のバトルを目の前にした時の描写もこんな感じ。

纏わりつく髪の中で喘ぐように暴れている伽椰子は、黒髪の中から何かを掴んで引き摺りだす。貞子だった。が、こうなってしまうと、ほとんど二人の見分けがつかない。二人とも、血と髪の毛に塗れ、壊れた木偶のような動きで絡み合っている。
「貞子vs伽椰子だ!」

 「貞子vs伽椰子だ!」じゃねえよ。

最後に一点。フリーライターが最初に頼る霊能力者、法柳さんの描写が個人的にはすごく良かったです。映画版ではヒロインたちを助けようとして命を落とす彼女ですが、今回は「無理! 手に負えない!!」と早々に諦めて生き延びます。この「貞子の呪いを見た瞬間に諦める」感じがすごく好き。僕は霊能力者が手に負えない相手を見てビビる描写が大好きなんです。

「お願いします、なんとかしてください」
「なんとかしてやりたいが、想いだけでは叶わぬこともこの世にはたくさんある。今がそうだ」

 言葉の節々から法柳さんの真摯さを感じられるんですね。でも、どれだけ真摯でも自分の身を守ることで精一杯。映画版の凄腕霊能力者「常盤経蔵」も呪いのビデオを見たり、呪いの家に入ろうとはしませんでした。実力があっても貞子や伽椰子には呪われたくない、こいつらに呪われたら俺たちでもヤバイ、というニュアンスが、逆説的に法柳さんや経蔵の格を上げています。彼らは身の程を知っている。

 というわけで、小説版は普通に面白かったです。呪いに怯えるはずの被害者側が、常識外れの行動に出て、「幽霊vsイカレポンチ」みたいな構図になるのアツイですよ。一人だけ常識人のヒロインがかわいそう。

 なお、さらなる関連作として『映画の生体解剖 vs 戦慄怪奇ファイル コワすぎ!: 映画には触れてはいけないものがある』があります。対談形式により映画版のシーン毎の解説が監督自身の言葉で行われており、こちらもファンにはマストアイテムです。