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電子書籍でしか読めない有名文学賞受賞作『名もない花なんてものはない』

受賞作を電子書籍でしか読めない文学賞がある。「坊っちゃん文学賞」だ。
 2009年の第11回以降は、大賞受賞作品をすべて電子書籍で刊行している。第14回大賞受賞作『名もない花なんてものはない』もまた、2016年5月31日に電子書籍として発売された。

『名もない花なんてものはない』は、主人公・千花の高校生活を描く。
 幼い千花に花や虫との触れ合いを教えてくれた祖父との思い出。ナオと小夜子という2人の友人や、隣のクラスの山崎との出会い。その2つの軸を行き来しながら、千花は友情や恋心、そして自分のパーソナリティについて理解しようとしていく。

「この花が綺麗なんは、ここで咲いてるからや。千花の手の中でずっと、この色でいられると思うか? 好きなもんは、自分のもんにしたくなるもんやけど、遠くから大事に思うんも愛情ちゅうやつちゃうか」

これは、幼い千花が綺麗なツユクサを摘もうとしたとき、祖父がかけた言葉だ。実はこの後、千花は祖父に秘密でツユクサを摘んでしまう。高校生になった千花は「好きなもん」に対してどう向き合っていくのか。
 触れるだけで割れてしまいそうに張りつめた高校生の感情が、祖父との思い出を通して瑞々しく描かれていく。

 坊っちゃん文学賞の作品は、紙の本にすると30~50ページほどと短い。若者が主人公の青春小説や恋愛小説が多く、さらりと読める。
 私は電子書籍を読むのにスマホアプリを使っているが、通勤30分間の軽い読書にちょうど良かった。

「坊っちゃん文学賞」は、映画化された『がんばっていきまっしょい』(敷村良子 第4回大賞受賞作)や、人気小説家・瀬尾まいこ(第7回大賞受賞)を輩出している。
その大賞受賞作品でありながら、電子書籍でしか読めないというレア感。そして、これからの暑い季節に合う、さっぱりとした読後感。 2つの違った満足感が、通勤中のしぼんだ心を満たしてくれた。