たかが女の話か、くだらない ――『こころ オブ・ザ・デッド』原作者が読む夏目漱石の『こころ』
アーススターにて僕の作品『こころ オブ・ザ・デッド』の連載が始まりましたので、この場をお借りして、時々、夏目漱石の作品の感想を書いていこうかと思います。
参考サイト : こころ オブ・ザ・デッド|コミック アース・スター http://comic-earthstar.jp/works/kokoro/special2.php
で、まずは『こころ』。
最初読んだ時は「ハァ? 何これ」という感じでしたが、四回読み直した今となっては、「結構良い」のではないでしょうか。
大まかなあらすじとしては、先生が卑怯な振る舞いをして女をゲットしたせいで友人Kが自殺。その罪悪感に悩み続けていた先生がいよいよ自殺するお話。この本題に入るまで、なんとまるまる半分を序章(?)に使っています。
しかし、序章パートが意外と面白くて、「あー、あるある」と共感できるのはむしろこちらかもしれません。
「父親が死にそうだから慌てて田舎に帰ったけど、意外と長持ちしてて、嬉しいんだけど、それはそれとして仕事に戻れなくて困る」
「実家に帰省した際に、これとこれをやろう、と日課を決めて帰ったけど、実際はその1/3くらいしかできてない」
「実家に帰ると一週間くらいはちやほやされるけど、それを過ぎると、家族が慣れてきて扱いがぞんざいになる」
などなど……。明治の人も今と変わんねーなー、と思わされます。
話が本題に入る後半ですが、これを楽しめるかどうかは人によると思います。前半で延々と「先生の過去に何かがあった!」と焦らし続けるのですが、蓋を開けてみると要は女絡みの三角関係。これを「なんだ、たかが女の話か」と思ってガッカリするか、「うむ、恋愛は普遍的なテーマだな」と思うかで初読時の印象が変わってくると思います。
なお僕は「たかが女の話か、くだらない」でした。そもそも僕は他人の恋愛にあまり興味がないんだ。延々悩んだり、うじうじしたり、そんなの見てて何が楽しいんだ。しかも先生はKに対して圧倒的なアドバンテージを持ってるのに、まごまごしてるせいで、どんどん話がこじれていく。「さっさと動け」と思いながら、先生のまごまごに延々付き合わされる。
この、「バカ! そこでまごついてんじゃねえよ、さっさと動け!」というのは夏目漱石作品を読んでいて何度も覚える感覚ですね。漱石キャラはまごついて動かない奴が多い。恋愛に限らず。まあ、先生の場合、動いたら動いたで碌でもない結果になるんですが。
ただ、一度読んでこういう筋書きを知った後で読み返すと、もう恋愛の話だと分かってるので、そこは織り込み済みで読めます。すると流石は漱石先生。文章はやっぱり上手いから、前半の序章部分もいろんな情報が盛り込まれていることに気付くし、後半の展開も心情描写の上手さに加え、Kのキャラクター描写と先生の卑怯な策略がガッチリはまっていて、なんだかんだで完成度は高いです。
しかし、本作のテーマの一つと思しき、「明治の精神」うんぬんというのはさっぱり分からない。いや、もちろん説明されれば理屈では分かるけど、読んでて共感は全然できない。だって明治時代人じゃないから。そんな問題意識、抱いたことないし、抱けないもん。この点に関しては、いかんせん大昔の作品ですね。