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「サクラクエスト」22話 終わろうとする商店街を全て救うことはできないけれど

20歳女子の木春由乃。ド田舎の間野山観光協会に呼ばれて、足つぼマッサージ。
アニメ『サクラクエスト』22話。Amazonプライムビデオでは、テレビ放送後すぐに配信されています。

公式HPより

この連載は来週以降、「アオシマ書店」一時休止に伴って「たまごまごごはん」(筆者の自サイト)に移動します。
(もしどこか掲載させてくださる媒体がありましたら、一言お声掛け下さい!)

ところで、『サクラクエスト』を作っているP.A.WORKS本社のある富山県南砺市が、今年10月に作中の「間野山市(もちろん架空)」と姉妹都市提携をすることになったそうだ。
南砺市とアニメ「サクラクエスト」 架空都市 間野山市と姉妹提携へ(中日新聞)
「見覚えのある風景」の多い南砺市。聖地巡礼ネタだけではなく、真剣に観光学を考える題材としていくようです。

●シャッター商店街に灯りを 22話「新月のルミナリエ」
家出した中学生・エリカは、由乃たちの過ごすシェアハウスにかくまってもらっていた。ところが夜になり、エリカの歯が痛み始める。
商店会の千登勢のはからいで、薬局を開けてもらった一同。
その時、弟の杏志が行方不明になった、という報を聞く。
姉に東京に行ってほしくなかった杏志は、エリカを探そうとしていたのだ。一斉に夜の雪の中捜索が始まる。

一連の出来事を見た本屋の野毛は、子どもがいたいと思う町づくりを、自分たち大人がしていくべきだ感じ、以前観光協会が提案した廃校利用での文化活動を考える。
観光協会の女子たちは、以前訪れた蕨屋集落で使っていた吊り灯籠を入手。暗いシャッター商店街にぶらさげ、少しでも明るくしようと試みた。

公式HPより

●復興は無理でも
間野山のシャッター商店街問題。
22話ではある程度はしかたないという描写をしている。

真希「野毛さんみたいに何かやりたい人はやって、今のままでいいって人はそのまま。それもまた一つの選択だよね」
早苗「商店街は本来の役目を終えて、静かに消えていくしかないのかな」
由乃「でも、やっぱりこのままじゃちょっとさみしい」

今までの「限界集落問題」や「廃校放置問題」は、何人かで音頭をとって声掛けすれば、少しは行政に働きかけができていた。
しかし「シャッター商店街問題」は、多くの家庭の経済事情に踏み込むことになる。
そもそも、21話で述べられていたように、シャッター商店街は「不幸」なわけじゃない。住んでいる人はお金を持っているし、生活はちゃんとできている。
「活性回」という名分の都合を押し付けるわけにいかない。

作中では、シャッターを降ろした店の人たちも登場していた。みんな平穏に暮らしている。
一見廃墟に見える商店街は、住宅としてそれぞれ人が住んでいる。
役目を終えて静かに消えていく商店街。
でも死んではいない

だから、由乃たちは蕨屋集落で独居老人が使っていた吊り灯籠を、町の生きている証として、吊るした。
町の生存確認。今はこれで十分だ。

●夢は本屋さんでした
1人で書店を営む男性・野毛が開いている書店は、シャッター商店街の中開いてはいるものの、客は多くはない。

野毛「あの本屋は子供の頃によく通ってた本屋なんだ。店主が店を閉めて、息子さんと同居するって話を聞いて、それで頼み込んで家ごと本屋を受け継いだってわけ。子供の頃自分が毎日ドキドキしながら通った本屋を、もう一度作りたいと思ったんだよ。でも現実は厳しかったー」

町が生きながらえるには、生活必需品が簡単に手に入る環境が必須だ。
もっとも今は、大型スーパーかコンビニが全てをカバーできている。

一方、町の活性化には、文化的な施設や商店が欠かせない。
本、音楽、ファッション、映画、雑貨、娯楽場、演劇、喫茶店にレストラン。
「心の余裕」「ゆとり」が、町にあるかどうかの差は大きい。

野毛が夢見ていた書店は、SFやミステリー、絵本などを売る店だった。
実際に売れるのは雑誌やベストセラーくらい。あとは入り口に貼ってあった、教科書か。

では都会で店を開いたら、SFやミステリーはすぐに売れるのか?と言われたら、それはNO。
ネット通販も整っているこの時代、書店に文化性を求める客を増やすとしたら、本を並べるだけでは意味がない。
書店側が何らかの意思を持って、店のコンセプトを作らなければいけない。

北海道ではシャッター商店街に、「通いたくなる本屋」を作る試みをしている人がいる。
北海道のシャッター通りに本屋をつくる(マガジン航)
この店、扱うのは人文書と古書だけ。
「通りすがりの客はいないので、雑誌、コミック、実用書、話題書などを置く必要はない。ジャンルを絞りきったほうが「通いやすい書店」になるだろうという読みだ。」

野毛たちは、廃校の教室を利用して「本とジャズのあるカフェ」を考えた。
洒落っ気と、道楽とも思える志向性。必需品を売る店ではないからこそ、重要だ。

現実のシャッター商店街再生の様子を見ると、「かつての店を再開する」ことはあまり重要視されていない。
繁栄していた過去と今は違う。ただ開いたって、客なんて来ない。

「過去の哀愁にとらわれず、その土地、時代、マーケットにあった商店街にゼロベースでデザインしていくことが本当の意味での商店街「再生」なのだろう。」
シャッター商店街が4年で29店舗も誘致できたワケ(日刊工業新聞)
建物を活かしながら改装し、生活必需品ではない店やオフィスを建てていく。
エスニックな小物店や、レトロファッション、海外の料理、サブカルチャー書店やレコード店などなど。趣味人や次世代に向けて、発信するつもりで作る。
こうして「活発」とは言えないまでも、別の姿に変わっていった商店街の例はいくつかある。
北海道札幌市の狸小路のシャッター街などはその例だ。

中学生のエリカの「こんな田舎は出たい」という主張も、ここにつながっていく。
文化のない町が、彼女は嫌なのだ。おしゃれな服着ても誰も見ない、というのはド正論。
さすがに彼女に「現状を受け入れろ」というのは残酷すぎる。

でも、間野山にゆとりが見えてきたら、店を作ることは現実的になる。
そのゆとりを作るのは、大人の仕事だ。
野毛の本とジャズのカフェの隣なら、おしゃれな服を売る店を作れそうな光明も見えてくる。
一方で町を大好きなしおりは、エリカの支えにはならないかもしれないけれど、彼女が安心して帰ってくる場所になろうとしている。これもまたゆとり。

子どもたちが未来を考えるのはゆっくりでいい。20歳越えてからだって大丈夫。
間もなく由乃の1年の任期は終わるけれども、間野山はこの後も続く。

アニメはどうやら25話までのよう。
派手な観光から離れ、地味な地元活性化の活動にシフト。ここから大事件が起きて……という雰囲気ではない。
どういう問題提起をして着地するのか、楽しみです。

コミカライズ版3巻は9月19日発売。収録されているのは、ご当地料理と婚活ツアー、しおりと凛々子回です。

*アオシマ書店のレビュー記事配信終了に伴い、「サクラクエスト」レビューは今回が最終回となります。ご愛読ありがとうございました(編集部)

『サクラクエスト』1話 就活失敗女子、限界集落寸前の町で疑問だらけの行動の末、国王になりました
『サクラクエスト』2話 最初の町おこし失敗、サイト作ったくらいでお客さん来たら苦労はしません
『サクラクエスト』3話 町の発展とか正直どうでもいい、住む権利はあるけど、盛り上げる義務はないでしょ
『サクラクエスト』4話 由乃国王、サーバルちゃんみたいになる「すごーい!」
『サクラクエスト』5話 バカは立派な褒め言葉、サグラダファミリアみたいな建造物をつくりたい由乃国王
『サクラクエスト』6話 売れたかったら蝉を食え。女優って職業の人は……「変わった人間」なんだなぁー
『サクラクエスト』7話「そんなのふるさと捨てた由乃ちゃんだから言えるんだよ!」
『サクラクエスト』8話 年上キラーしおりちゃんの冷たい微笑みはまじサタン
『サクラクエスト』9話 田舎の人間関係の間合いを実感しつつ、水着で流されそうめん女子
『サクラクエスト』10話 オタク「コミュ障気味」女子、田舎の婚活ツアーが無理すぎてほとほと疲れ果てる
『サクラクエスト』11話「私のことなんか誰も認めてくれない」そんな引きこもりUMA女子ががんばった
『サクラクエスト』12話 田舎に人気ロックバンドを呼ぶとかやめてー! 大失敗フラグじゃないの?
『サクラクエスト』13話 待て待て、半年程度で観光客が毎日もりもりくるようになるとか、絶対ないから!
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UMAが好きなら言葉なんていらない「サクラクエスト」15話 凛々子、外国人女性の友達ができる
東京に出て音楽をやるんだ「サクラクエスト」16話 今は頑固な老人たちも、ロックに叫んでいた
「サクラクエスト」17話 若い女の子たちが、独居老人の限界集落問題なんて解決できるのか
神回「サクラクエスト」18話。このアニメやるな、過疎地区の独居老人問題に1つの解を見事に示す
「サクラクエスト」19話 廃校舎は再利用できるし、女優の夢だって諦めなくていいんじゃないの?
「サクラクエスト」20話 廃校での演劇でアレを見せるなんて、そんなの卒業生泣いちゃうじゃん
「サクラクエスト」21話 シャッター商店街は必ずしも悲劇の舞台ではない