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「サクラクエスト」21話 シャッター商店街は必ずしも悲劇の舞台ではない

20歳女子の木春由乃。ド田舎の間野山観光協会に呼ばれて、家出JCをかくまう。
アニメ『サクラクエスト』21話。Amazonプライムビデオでは、テレビ放送後すぐに配信されています。

1話の時からヒロイン由乃が気になっていた「シャッター商店街」問題に、ついに踏み込みます。

公式HPより、二期のメインビジュアル

●こんな町出ていきたい 21話「氷の町のピクシー」
由乃たち観光協会の面々がしばしば訪れる軽食店・アンジェリカの娘エリカが、雪の中ヒッチハイクをしていた。
たまたま見つけた由乃たちは、エリカが家出して東京に行こうとしていたのを知る。きかん気のエリカをなんとか引き止めるため、一同はシェアハウスに泊めることにした。
一方、みずち祭復活のために商店街の人たち全員に話をすることになった由乃。しかしほとんどの店はシャッターが降りている。
なんとか店を再開してほしいと願うものの、商店街の人から現状で困っていないことを聞かされ、由乃は困惑。自分たちがやっていることは町の人のためになるのか、迷い始める。

公式HPより

●シャッター商店街の現実
閉店した店が立ち並ぶシャッター商店街は、田舎に限らず、日本中どの地域でも見かける光景。
80年代くらいまでは賑わっていた商店街も、車が普及し、大型スーパーが出来始めると、存在価値が薄まってしまった。
間野山の商店街は、通行人すらいない。一話で由乃が国王として凱旋で通った時、商店街に誰一人見つからない、という皮肉めいた状況だった。

作中で主人公たちが通るたびに、悲しい気分になる間野山シャッター商店街。
なんとかしたい、という気持ちの由乃に対し、本屋を開いている野毛の言葉は「諦念」だった。

「みんな当面の生活には困ってないから。商売として成り立たなくても、これまでの蓄えがある。子どもは成人して都会で就職。自分たちの暮らしだけなら問題ないってわけ」

「もし仮にここに新しい店が出来たとして、買い物する? いつも商店街で買い物してる? 大体スーパーでまとめ買いじゃないの? 気にすることはないよ、みんな同じようなものだから。今の時代、商店街の役割はもう終わったんだよ」

現実のシャッター商店街の人たちの声も、そんなに悲観的ではない。

「お店をそのままにしているのは更地にすると固定資産税が高くなってしまうからだという。節税対策のために昔のお店はわざと放置しているのだ。」
都会人にはわからないシャッター通り商店街の「本当の問題」(文春オンライン)
貸し出すでも潰すでも再開するのでもなく、あえて「閉じたお店」のままにしている。そうするのが、一番損がないのだ。

「シャッター商店街の不動産オーナーが明日の生活にも困っているかと言われれば、そんなことはない、むしろ豊かであることが多くあります。」「本当に困っている人は、シャッターを閉めて不動産を放置しておくことなどはできないのです。」
「「不動産オーナーたちも別に収入があり、組合も駐車場経営がうまくいっているから全く困っていない」と誇らしくお話頂いたりしたこともありました。」
「シャッター商店街」は本当に困っているのか(東洋経済オンライン)
店と土地を持っている時点で、かつてお金持ちだった人は少なくない。「シャッター商店街はかわいそう」というのは、都会人の勝手な思い込みだということもある。

店を開けるということは、現状ならボランティア的に、自らが時間と代価を払わねばいけなくなる。子どもが出ていった老人たちには、酷な話。「活性化」とよそに言われたって、生活を捨てる訳にはいかない。

作中の野毛は、比較的若い男性にもかかわわらず、他の町民と比べて極端に由乃たちの案に消極的なキャラだった。
ある意味、彼の「それどころじゃない」「別に盛り上げなくていい」という思いは、シャッター商店街の本音のひとつだろう。

「今の生活を守りたいだけなんだ」というセリフが全てだ。
現実のシャッター商店街の中には、再生できた地域もある。(参考・シャッター商店街が4年で29店舗も誘致できたワケ
だがそれは、お金と労力と知識、時間をかけた計画性と、ゼロからの再建をする決意が必要だ。
今の間野山には、それがない。20代女子5人には荷が重すぎる。

●子どもたちの未来が見当たらない
家出をしたエリカは、反抗期な少女。大人たちを一切信じず、誰彼構わずケンカ口調。
彼女が反発心を抱く理由のほとんどすべては、間野山という田舎への嫌悪感と、住民への不信感だ。

商店街がこのまま静かに消えていくのも、一つの選択肢だ。
しかしそれは、現時点での大人の生涯の話。
朽ちていくのを待つ町は、子どもの未来のことを、考えてはくれない。
だから若者は、みんな家を出ていく。

この町の大人たちが、どのくらい子どもたちを間野山に引き止めたいのかは、はっきりとは描かれていない。
少なくとも、農家のしおりの父親、過保護だった凛々子の祖母、ケンカしていた真希の父親は、本人がやりたいことをやりなさい、という考え方。町に無理して残らなくていいと考えている。
なんせ、みんな20を越えた成人女性だ。

エリカの場合の問題は、単純に「中学生だから」の一点。
成長して大人になったら出ていけばいい。とはいえ、一生出られないんじゃないかと怯え、耐えきれなくなるのも理解はできる。
(このあたりは、同規模の田舎に住む中学生を描いたマンガ『惡の華』の、山に囲まれ出られない圧迫感表現と比較すると、わかりやすい。)

20代の「若者」にあたる観光協会の5人は、20話までの間で、外に出ることの魅力を感じたり、町でやりたいことを見つけたりと、ようやく自分を見つけはじめている。
21話は、そのさらに下のエリカという「子ども」の世代に対してのアプローチ。
20話では、廃校になった中学校の有効活用を描写。ようやくこれからの町の文化作りが見えた。だが子どもにとっての1年は長い。町が活気にあふれ、魅力的になるのを待ってなんていられない。

母親がきちんと、間野山に住んでいる理由を説明するか。あるいはエリカ本人が、この町にとどまるだけの魅力を見つめ直せるか。そうしないと、彼女の「出て行きたい」気持ちは止められない。
ぶっちゃけ、都会にあてがあれば、間野山を出て行ってもいいのだ。それよりも、由乃たちが20歳を越えた今になって通ってきたように何をしたいのかを見つけることのほうが大事だ。
場所はどこでもいい。

町を大好きなしおりの「町を好きなのは変なのか」という悩みが痛々しい回。
真希の「間野山に劇団を作りたい」のような、「自分>町」の意識がなく、「町>自分」な彼女だからこその、悶々だ。
町が嫌いなエリカと、町が大好きなしおりの対比は、次回以降どう描かれるのか気になるところ。
ここ数回、無茶振りな地域復興問題に対して、作品なりの(実現可能かどうかはさておき)案を出してきたサクラクエスト。シャッター商店街・町の衰退問題への、スタッフの出すなんらかのアンサー、期待しています。


コミックアンソロジーは8月24日発売(紙媒体は8月10日)

『サクラクエスト』1話 就活失敗女子、限界集落寸前の町で疑問だらけの行動の末、国王になりました
『サクラクエスト』2話 最初の町おこし失敗、サイト作ったくらいでお客さん来たら苦労はしません
『サクラクエスト』3話 町の発展とか正直どうでもいい、住む権利はあるけど、盛り上げる義務はないでしょ
『サクラクエスト』4話 由乃国王、サーバルちゃんみたいになる「すごーい!」
『サクラクエスト』5話 バカは立派な褒め言葉、サグラダファミリアみたいな建造物をつくりたい由乃国王
『サクラクエスト』6話 売れたかったら蝉を食え。女優って職業の人は……「変わった人間」なんだなぁー
『サクラクエスト』7話「そんなのふるさと捨てた由乃ちゃんだから言えるんだよ!」
『サクラクエスト』8話 年上キラーしおりちゃんの冷たい微笑みはまじサタン
『サクラクエスト』9話 田舎の人間関係の間合いを実感しつつ、水着で流されそうめん女子
『サクラクエスト』10話 オタク「コミュ障気味」女子、田舎の婚活ツアーが無理すぎてほとほと疲れ果てる
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