「サクラクエスト」20話 廃校での演劇でアレを見せるなんて、そんなの卒業生泣いちゃうじゃん
20歳女子の木春由乃。ド田舎の間野山観光協会に呼ばれて、廃校の使い方を考える。
アニメ『サクラクエスト』20話。Amazonプライムビデオでは、テレビ放送後すぐに配信されています。
二期に入ってから右肩上がりに「地方活性化」のリアルさと、ヒロインたちの成長描写の面白さが爆発中。どんどん話が回収されています。「地味な神回」の連続です。

公式HPより、二期のメインビジュアル
●廃校舎は役目を終えて、新たな空間へ 20話「聖夜のフェニックス」
映画のオーディションに落ちた真希。役者の道を諦めて、観光の仕事に専念しようと決めた。
10年前に廃校した中学校に、興味を持ってもらいたいと思う由乃たち観光協会の面々。
真希の話によると、閉校式が行われていないためケリがついていないのが原因らしい。
由乃たちは閉校式を企画。同窓会的に多くの卒業生を呼び、イベントを開催することにした。
当日、真希が作った「血まみれサンタ」の演劇を披露。劇は大成功し、由乃は「閉校」ではなく、文化の発信拠点として「一般開放」したい、と演説した。
真希は演劇が好きなことを再確認。この場所で劇団を立ち上げる決意をする。

公式HPより
●地域で伝える、小劇団
真希は落選して涙していたが、ぶっちゃけ一回のオーディションであれこれ受かるほど甘くはないよね、女優業。
真希は「大根役者」なわけではなくて、単純にこの映画にあわない、ってだけなんじゃないかな。そこまで残酷な結果ではないと思う。
(でもあの発表の仕方はひどいね!)
廃校になった学校を利用した地域小劇団を立ち上げる、という道を真希は選んだ。
「この町に娯楽がないなら作っちゃえ」
演劇にはいろんな道がある。テレビ全国区の俳優から、仲間内の劇団まで。
真希は、人前で演技をすることで、「有名になりたい」わけじゃなくて「人に伝える力のある演劇をしたい(19話より)」という気持ちに、はっきり気づいた。
おそらく真希が考えているのは、地元と学校向けに劇をする集団だろう。プラス周辺地域での公演かな?
金銭面的な問題もクリアしながら運営できる可能性、十分にある。
なんせ真希の父親・巌は教頭先生。教育機関と連携をはかれれば、市内各地の学校を巡ったり、町の伝承を伝える観光客向け上演をしたり、ワークショップを開いたりできる。
由乃による閉校式の提案でも、巌はこう言っている。
「教育委員会と言ってもそんなにお硬い組織ではない。こういう趣旨ならノーはいわんでしょう」「地方の行政はね、顔がきくかどうかなんだよ」
悪く言えばなあなあ。よく言えば話次第で融通が効く。どんどん利用すべし。
今回の劇を見る限り、先輩や演劇経験者もいる。こんなに至れり尽くせりな環境はない。
真希は、以前凛々子が解明し、埋もれたままだった「龍の唄」を題材に演劇をしたい、と考えている。
「異文化共生」という間野山の伝統を継承するには、これ以上無い方法。
このアニメが引っ張り続けた、間野山の歴史絡みの伏線がいっぺんにつながった。
今回由乃が、心から生き生きした笑顔の彼女を見てびっくりしたように、ここからが真希の本気ターン。
今まで真希が、斜に構えてモヤモヤした展開が多かったのは、今回のカタルシスのためだったのだろう。
●内輪ネタと自虐ネタ
「血まみれサンタ」の噂を知った若者が、心霊スポットとして廃校を荒らすのは、一つの問題だった。
これをネタ演劇にして笑い飛ばしたことで、噂を払拭。
プラス視点の「思い出」に「成仏」させた展開は見事。その手があったか!
演劇のラストで、ずっと放置されていた先生と生徒たちが作ったモザイクレリーフのアップが披露される。
玄関に飾られていた絵も、取り壊しになったら、そのまま忘れさられていただろう。
でもみんなの見ている舞台でオープンになれば、かつての生徒たちの中に、それぞれの中学校時代の思い出が、母校への思いが蘇らないわけがない。泣いちゃうよそんなの。
うまいのはこのイキな演出が、学校の卒業生以外にはなんの感慨もないところだ。
「血まみれサンタ」の劇は、間野山あるあるネタと、少子化などの自虐ネタ満載の、超内輪受け演劇だ。
元在校生の前で演じる劇としては、完璧な題材。感動させるためじゃなくまず思い出してもらうのが狙いだからだ。
この劇を、外部に見せることはしないだろう。
観光協会の女の子たちが今考えているのは、いかにして町の人たちが間野山に目を向け直し、施設を有効活用して、喜んでもらえるか、というベクトルのみだ。
●観光よりも先に
一期は「観光」をテーマに試行錯誤していた。
しかし二期は、ほとんど観光の話をしていない。丑松につっこまれるほどに。
17から20話までの「お祭りアイテム探し編」でも、びっくりするほど祭具のことを考えていない。
これは、地元をまわっているうちに、もっと大事な町民の生活に気づきはじめたからだ。
18話のデマンドバスといい、20話の学校開放といい、喜ぶのは地元民だ。
しかし長期的に見ると、外部からの人にもこれはプラスになる。
デマンドバスの採算が取れるようになれば、観光客が広い間野山を堪能するのに最適な乗り物になるだろう。
学校開放によって育まれた演劇や合唱や太鼓などの文化は、地域発信の見世物として外部に見せることができる。
観光を成立させるには、地元民が喜ぶまちづくりが最優先というルートを、彼女たちはいつの間にか辿っている。
今回失敗したけど、給食を食べる会、今ならうまくいくと思うよ。
残りの話数もわずか。
ここ数回の地に足の着いた、現実的な地方の現実問題を具体的に考えよう、という物語作り。
派手じゃなくていい、しっかりと「来年以降も町は続く」物語にしていってくれる、と信じています。
ちなみに太鼓は胴長2.5尺(75cm)の両面張替えで、40万くらいが相場だそうです(参考)。娘のあんな笑顔見ちゃったら、まーパパ払うよね。応援しちゃうよね。
教授といい、巌パパといい、自分たちは手を出さない。年長者たちは頑張る若者をフォローする。
コミックアンソロジーは8月24日発売(紙媒体は8月10日)
『サクラクエスト』1話 就活失敗女子、限界集落寸前の町で疑問だらけの行動の末、国王になりました
『サクラクエスト』2話 最初の町おこし失敗、サイト作ったくらいでお客さん来たら苦労はしません
『サクラクエスト』3話 町の発展とか正直どうでもいい、住む権利はあるけど、盛り上げる義務はないでしょ
『サクラクエスト』4話 由乃国王、サーバルちゃんみたいになる「すごーい!」
『サクラクエスト』5話 バカは立派な褒め言葉、サグラダファミリアみたいな建造物をつくりたい由乃国王
『サクラクエスト』6話 売れたかったら蝉を食え。女優って職業の人は……「変わった人間」なんだなぁー
『サクラクエスト』7話「そんなのふるさと捨てた由乃ちゃんだから言えるんだよ!」
『サクラクエスト』8話 年上キラーしおりちゃんの冷たい微笑みはまじサタン
『サクラクエスト』9話 田舎の人間関係の間合いを実感しつつ、水着で流されそうめん女子
『サクラクエスト』10話 オタク「コミュ障気味」女子、田舎の婚活ツアーが無理すぎてほとほと疲れ果てる
『サクラクエスト』11話「私のことなんか誰も認めてくれない」そんな引きこもりUMA女子ががんばった
『サクラクエスト』12話 田舎に人気ロックバンドを呼ぶとかやめてー! 大失敗フラグじゃないの?
『サクラクエスト』13話 待て待て、半年程度で観光客が毎日もりもりくるようになるとか、絶対ないから!
傑作の予感『サクラクエスト』2期へ。大成功しないリアルな歯がゆさの中、20代女子5人町おこし奮闘中
恐怖、うら若き女子に詰め寄る安産軍団「サクラクエスト」14話、定住人口を増やせるのか問題
UMAが好きなら言葉なんていらない「サクラクエスト」15話 凛々子、外国人女性の友達ができる
東京に出て音楽をやるんだ「サクラクエスト」16話 今は頑固な老人たちも、ロックに叫んでいた
「サクラクエスト」17話 若い女の子たちが、独居老人の限界集落問題なんて解決できるのか
神回「サクラクエスト」18話。このアニメやるな、過疎地区の独居老人問題に1つの解を見事に示す
「サクラクエスト」19話 廃校舎は再利用できるし、女優の夢だって諦めなくていいんじゃないの?