• トップ
  • 新刊情報
  • 「サクラクエスト」19話 廃校舎は再利用できるし、女優の夢だって諦めなくていいんじゃないの?

「サクラクエスト」19話 廃校舎は再利用できるし、女優の夢だって諦めなくていいんじゃないの?

20歳女子の木春由乃。ド田舎の間野山観光協会に呼ばれて、テトラパックの牛乳を飲む。
アニメ『サクラクエスト』19話。Amazonプライムビデオでは、テレビ放送後すぐに配信されています。
20話放映後ですが、19話を振り返ります。

公式HPより、二期のメインビジュアル

●暗闇の廃校舎、光射すおでん 19話「霧のフォークロア」
「みずち祭り」に必要な「吊り太鼓」を見つけるため、廃校になった第二中学校を探索していた観光協会の面々。そこで出会ったのは、小学校の教頭でもある、緑川真希の父親・緑川巌だった。
真希と父は犬猿の仲。父は彼女が大学を中退したことを今も怒っており、真希も売り言葉に買い言葉で、父に反発しつづけている。
そんな真希の元に届いたのは、以前応募したオーディションの通知。しぶる真希の背中を、弟、父、友人が押す。

公式HPより、みんなすっかり冬服です

●学校はいずれ消えていく、とは限らない
小中学校は、ある程度子どもがいたら絶対に必要な施設。
しかし全校生徒10人以下になると、維持が難しい。
次にあがってくるこどもの数を確認し、先生の配置や電気水道等維持費を鑑みて、廃校かどうかが決まる。

廃校経験者だと泣きたくなるシーンの連発だ。
かつて、先生と生徒たちが作ったモザイクレリーフは、誰にも見られないまま眠っている。
通っていた場所は、心霊スポットとして、興味本位の若者たちに弄ばれてしまっている。
再来年には、取り壊し予定だ。

ここで真希の父親の巌のセリフが重要になる。
「廃校と言っても廃墟ではないからね。電気も水道も、一応通っているよ」
よく見ると、非常灯や消火器具のランプがちゃんと描かれている。

今回の中学校は、普段使われていないだけで、遊休施設として最低限の管理はされている。
この中途半端さが、お金のかかる問題な部分。同時に、可能性でもある。

廃校の再利用は、アイデア次第だ。
〜未来につなごう〜「みんなの廃校」プロジェクト(文部科学省)
廃校リニューアル50選(文部科学省)
「主な転用事例としては、公民館などの社会教育施設や体育館などの社会体育施設といった公営施設への転用が多く見られますが、中には宿泊施設や美術館、創業支援施設など、民間のアイディアを活用して廃校を生まれ変わらせた事例も存在しています」

宿泊施設としての利用は、面倒事はあるものの、成功例は多い。またたくさんの教室や体育館、校庭などがあることなどから、民間企業が利用するケースは増えつつある。
【地方誘致】廃校の観光利用 こんなに活用事例があったの知っていました?宿泊施設編(訪日ラボ)
民間企業のアイデアを踏まえ廃校活用の公募を開始、前橋市(新・公民連携最前線)
アイデア満載!「廃校リニューアル50選」で校舎の未来の姿を見てみよう。(greenz.jp)
案外自由になんでもできるもんですね。
一見でかくて邪魔だけれども、視点を変えればこんなに便利な建造物はそうそうない。

●古いほうが魅力的な町おこし
由乃がひらめいたのは、「中学校で食べよう なつかしの給食」というイベントだった。
ポイントは「廃校に目を向けてもらう」「大人の懐古を誘う」。

廃校+給食は、成功例がいくつかある。
廃校になった小学校で宿泊&給食を食べよう!山梨「おいしい学校」(icotto)
廃校で食べる給食に涙が溢れる!?昭和に忘れてきた、あの頃の自分に出会う旅。(eoおでかけ)
築50年の廃校で、『なつかしの給食』をたのしみましょー (2)(八幡平市観光協力宿の会)

ウリになっているのは、新しさではなく、古さだ。
このアニメの場合、由乃は別に間野山を都会化する必要はないことに気づいた。
むしろ地域住民の求めるものを重視し、「田舎化」した方が、内外への訴求力は高い。

給食に対して、まだ小学生のエリカは「まずい」と言う。大人たちは「懐かしい」という。
このギャップは、由乃の序盤と現在の変化によく似ている。
最初は人気取りのために目新しさを模索していた彼女。今は地元を振り返りで、間野山の人たちを活かす道を探している。
古いものに目を向ければ、無理せずとも自然と未来への道が見えてくるものだ。

●真希の再出発
廃校問題と並行して進んでいた、真希の女優再出発の話題。
父・巌のキャラが本当にいい。堅苦しくて頑固な彼。小学校の学芸会では真希ばっかり撮影し、女優デビューした時はすべての番組をチェック。愛すべき親バカ。
しかも今回、奥さんに対してラブラブなのも見えて、好感度大アップ。

今までは真希視点で描かれていたので、女優になることの難しさは、とてつもなく大きな壁に見えた。
しかし父親視点になると、彼女の挫折はさほど大きな問題ではなくなってくる。

「女優で食べていけない」という真希の考え方に対し、父親はそこを追求しない。
「お前はよく笑う子だった。役者、続ければいいじゃないか。食べていけとは言ってない。好きなものを好きでいつづけるのが、そんなに苦しいことなのか? よく笑う子だったんだよ、お前は」
成功しなければいけない、というまっすぐすぎる真希の視点を、父親はさらっと退けた。
親の願いは「子どもが立派になること」ではなく、「子どもが幸せになること」。

この作品は、町おこしは100点である必要はない、と描き続けてきた。
足りない部分があったって、一生懸命だったから、みんなの協力を得て乗り越え、笑顔でやってこられた。反省点は毎回あるけど、それでいい。

真希の女優への姿勢も同じだ。成功した後輩の萌と同じになる必要はない。
廃校舎の使い方が多種多様であるように、真希の女優への向き合い方は、観光教会の考え方は、もっと柔軟でいい。


コミックアンソロジーは8月24日発売(紙媒体は8月10日)

『サクラクエスト』1話 就活失敗女子、限界集落寸前の町で疑問だらけの行動の末、国王になりました
『サクラクエスト』2話 最初の町おこし失敗、サイト作ったくらいでお客さん来たら苦労はしません
『サクラクエスト』3話 町の発展とか正直どうでもいい、住む権利はあるけど、盛り上げる義務はないでしょ
『サクラクエスト』4話 由乃国王、サーバルちゃんみたいになる「すごーい!」
『サクラクエスト』5話 バカは立派な褒め言葉、サグラダファミリアみたいな建造物をつくりたい由乃国王
『サクラクエスト』6話 売れたかったら蝉を食え。女優って職業の人は……「変わった人間」なんだなぁー
『サクラクエスト』7話「そんなのふるさと捨てた由乃ちゃんだから言えるんだよ!」
『サクラクエスト』8話 年上キラーしおりちゃんの冷たい微笑みはまじサタン
『サクラクエスト』9話 田舎の人間関係の間合いを実感しつつ、水着で流されそうめん女子
『サクラクエスト』10話 オタク「コミュ障気味」女子、田舎の婚活ツアーが無理すぎてほとほと疲れ果てる
『サクラクエスト』11話「私のことなんか誰も認めてくれない」そんな引きこもりUMA女子ががんばった
『サクラクエスト』12話 田舎に人気ロックバンドを呼ぶとかやめてー! 大失敗フラグじゃないの?
『サクラクエスト』13話 待て待て、半年程度で観光客が毎日もりもりくるようになるとか、絶対ないから!
傑作の予感『サクラクエスト』2期へ。大成功しないリアルな歯がゆさの中、20代女子5人町おこし奮闘中
恐怖、うら若き女子に詰め寄る安産軍団「サクラクエスト」14話、定住人口を増やせるのか問題
UMAが好きなら言葉なんていらない「サクラクエスト」15話 凛々子、外国人女性の友達ができる
東京に出て音楽をやるんだ「サクラクエスト」16話 今は頑固な老人たちも、ロックに叫んでいた
「サクラクエスト」17話 若い女の子たちが、独居老人の限界集落問題なんて解決できるのか
神回「サクラクエスト」18話。このアニメやるな、過疎地区の独居老人問題に1つの解を見事に示す