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神回「サクラクエスト」18話。このアニメやるな、過疎地区の独居老人問題に1つの解を見事に示す

20歳女子の木春由乃。ド田舎の間野山観光協会に呼ばれて、限界集落のクーデターに参加する。
アニメ『サクラクエスト』17話。Amazonプライムビデオでは、テレビ放送後すぐに配信されています。

18話はTwitterやニコニコ動画コメントで、今まででトップクラスに称賛の声が高い回。
プロデューサー「こんなにも爺さん婆さんキャラが画面を占有しているアニメは、日本昔ばなしを除いて他に類を見ない」と言うとおり、画面はものすごく地味。
「独居老人」「限界集落」のシビアな問題に対し、可能性を考えようと挑む、迫力があった。

公式HPより、二期のメインビジュアル

●過疎集落に差した一筋の光 18話「ミネルヴァの盃」
集落に住む元大学教授・鈴原は、住んでいる地域への路線バスを廃止させないための、なんちゃってクーデターをはじめた。
老人たちが呼びかけをすると、町に住む老人たちもネタ的に面白がって協力しはじめる。

IT大臣の早苗は考え抜いた末、バス運転手の高見沢と一緒に「デマンドバス」の運行を開始。路線バスが廃止になっても大丈夫なよう手はずを整え、住民たちを支える決断をした。
鈴原は観光協会と地元住民が努力していこうとしたのを見た矢先、家で1人突然死してしまう。

公式HPより

●自動運転とデマンドバス
8月1日の富山新聞で「南栃で自動運転実験」が始まったと報道された。
『サクラクエスト』ではまだまだ遠い話として語られていたが、このニュースを見ると、バス運転手・高見沢の焦りと困惑が現実的なのがわかる。

路線バス廃止に対して出された策がデマンドバスだ。
普段走っていないけど呼んだら来る。大きめな乗り合いタクシーのようなもの。

日本でこのスタイルは幾つかの地域で起用されており、セダンからミニバンサイズで運行されている。
デマンド交通システムの孝行デマンドバス
ちょっと値段は高いけど、バス停までいく手間が省けるし、相乗りなので老人たちのコミュニケーションの場にもなる。

ネックになるのが、予約連絡。
バス会社側はそこにオペレーターの手をまわせない。老人側も複雑な手続きはできない。
そこを乗り切ったのが、老人たちがネットを使えるようにするという施策だ。

●老人にこそネットが必要な時代
タブレットでのネット利用を老人たちが覚えたお陰で、デマンドバスの具体的運用のめどが一気にたった。
由乃たちがネットの使い方を教えてから、老人たちが若者以上のバイタリティで、自主的に活用していくシーンが楽しい。
家具職人や農業など、今まで蓄積してきた自分たちの知識を、ネットで配信しはじめた。
これは失われるであろう集落の無形文化財の、デジタルアーカイブ化
口頭伝承だった技術を記録として残せる上に、全国にそれを伝えることができるスグレモノだ。

鈴原教授の視点は「この集落を救おう」ではなかった。
集落は、どうあがいたって、いずれ無くなる。
であれば、今生きている人たちが自分たちで生き、文化を残すべきだ。

鈴原がタブレット講習会を開いて、バスの提案をすることもできただろう。
それではだめなのだ。
老人たちが自主的に問題意識を持ち、若者がそれを汲み取って解決策を考える。
じゃないと、他の地域も含めたこれからが、続かない。
17話から由乃たちを焚き付け、全部自分たちでやらせた立ち回り、お見事でした。

●老人はいつか死ぬ
鈴原の死は、あまりにも唐突だった。
寒い時期の雪国は、老人の突然死が起きやすい。

蕨屋集落に住むのは、ほとんどが独居老人。突然なにかあっても、助けを求められる人がいない。車も出せない。
作中では体調を崩した老人を、たまたま居た由乃が軽トラで送り迎えするシーンもある。
だから住民は「吊り灯籠」を毎日各家庭にぶら下げて、お互いが何か起きてないか、チェックしあって生きている。

高齢者の孤独死はなぜ増える!? 高齢化に独居老人…日本が抱える社会問題から見える孤独死の真実とは!?(みんなの介護)
現実社会の60歳以上の高齢者は、会話や連絡のやりとりが「男女ともに「2、3日に1回」が圧倒的に高く、次いで「1週間に1回未満」」という実情があるそうだ。
電気メーターやガスなど、孤独死を避けるために「見守りサービス」も行われているが、「生存確認」レベルのもので、会話はない。

蕨屋集落の孤独を埋めたのが、IT大臣こと早苗の作った、間野山ネットワークだった。
音声入力によるチャットや、動画共有など。老人たちはどんどん活用していった。
おそらく今後、雪かきやデマンドバス利用も、いちいち電話をするのではなく、チャットでスムーズにやりとりして、暮らしていくだろう。
何よりSNSなので、警察やバスや病院、観光協会や町中の人と交流できるのはあまりにもでかい。
なにか困ったことがあった場合、早苗が管理しているので、更に新しいシステムを組めるはずだ。

文化人類学者としてこの集落に根を下ろした鈴原は、以前から土地から家から財産まで、全部整理済み。
早苗という弟子を作って、町のこれからを考える力を授けたのが、彼の最後の終活になった。

「昔のお祭りの復興」がテーマなら、今後さらに厳しい現実から目を背けるわけにはいかなくなってくるはず。予告だけ見ると廃校舎の話のようだけどどうなのかな。
残りの話数、全力で現実の過疎地域問題に切り込んでくれるのを、期待しています。

18話と真逆なくらいに明るく楽しく若々しいのが、スピンオフ『織部凛々子の業務日報』。
5人の女子はわりと本編頑張っているけれども、裏はかなり残念な感じで、ニヤニヤ楽しめます。

コミックアンソロジーは8月24日発売(紙媒体は8月10日)。

『サクラクエスト』1話 就活失敗女子、限界集落寸前の町で疑問だらけの行動の末、国王になりました
『サクラクエスト』2話 最初の町おこし失敗、サイト作ったくらいでお客さん来たら苦労はしません
『サクラクエスト』3話 町の発展とか正直どうでもいい、住む権利はあるけど、盛り上げる義務はないでしょ
『サクラクエスト』4話 由乃国王、サーバルちゃんみたいになる「すごーい!」
『サクラクエスト』5話 バカは立派な褒め言葉、サグラダファミリアみたいな建造物をつくりたい由乃国王
『サクラクエスト』6話 売れたかったら蝉を食え。女優って職業の人は……「変わった人間」なんだなぁー
『サクラクエスト』7話「そんなのふるさと捨てた由乃ちゃんだから言えるんだよ!」
『サクラクエスト』8話 年上キラーしおりちゃんの冷たい微笑みはまじサタン
『サクラクエスト』9話 田舎の人間関係の間合いを実感しつつ、水着で流されそうめん女子
『サクラクエスト』10話 オタク「コミュ障気味」女子、田舎の婚活ツアーが無理すぎてほとほと疲れ果てる
『サクラクエスト』11話「私のことなんか誰も認めてくれない」そんな引きこもりUMA女子ががんばった
『サクラクエスト』12話 田舎に人気ロックバンドを呼ぶとかやめてー! 大失敗フラグじゃないの?
『サクラクエスト』13話 待て待て、半年程度で観光客が毎日もりもりくるようになるとか、絶対ないから!
傑作の予感『サクラクエスト』2期へ。大成功しないリアルな歯がゆさの中、20代女子5人町おこし奮闘中
恐怖、うら若き女子に詰め寄る安産軍団「サクラクエスト」14話、定住人口を増やせるのか問題
UMAが好きなら言葉なんていらない「サクラクエスト」15話 凛々子、外国人女性の友達ができる
東京に出て音楽をやるんだ「サクラクエスト」16話 今は頑固な老人たちも、ロックに叫んでいた
「サクラクエスト」17話 若い女の子たちが、独居老人の限界集落問題なんて解決できるのか